夏の大会開幕を目前に控えた日曜日。
前日から降り続いた雨の影響で滑川総合高校のグラウンドは使えず、選手たちは室内練習場や体育館で最後の調整を行っていた。

昨夏、全国屈指の強豪・浦和学院を破った瞬間に二塁を守っていた濱本選手は、今年は遊撃手、二塁手、そして投手と複数の役割を担いながら、最後の夏へ向けて汗を流していた。
浦和学院を倒した歓喜も、その後に味わった敗戦の悔しさも経験した濱本選手が、高校野球を通して手にしたものは技術だけではなく
「諦めなければ、何が起こるか分からない」
勝負は最後の一球まで終わらないという信念と、一瞬の油断が流れを変えてしまう怖さ。その両方を知っているからこそ、濱本選手に話を伺った。
浦和学院戦で知った、高校野球という舞台の大きさ
昨夏、滑川総合は浦和学院を破り、埼玉大会最大級の番狂わせを演じた。
当時2年生だった濱本選手も、その歴史的な試合をグラウンドで経験した一人である。
彼が高校野球生活で最も印象に残っている場面が、この試合の九回の守備だという。
スタンドの観客の歓声は想像を超え、二遊間で交わすはずの声が互いに聞こえないほど球場全体が盛り上がっていた。
「高校野球って、すごいなと思いました」
歴史的快挙をグラウンドで経験した一人の高校球児が感じたのは、その舞台の大きさへの素直な驚きだった。そして同時に、最後まで諦めなければ何が起こるか分からないのが高校野球なのだと身をもって知ることになる。
あの日、自分たちは決して有利な立場ではなかった。それでも一球ずつ目の前のプレーを積み重ねた先に、歴史的な勝利が待っていた。その経験は濱本選手の高校野球観を大きく変え、「最後まで諦めない」という揺るぎない信念となって今も心に刻まれている。
最終回「気の緩み」から得たもの
歓喜の夏を経験した一方で、新チームになってからは悔しさを味わうことの方が多かった。秋季大会では熊谷商業戦で8回からマウンドに上がるも、9回に先頭打者へ四球を与え、その後ホームランを浴びてしまう。
「2点差の油断や一瞬の気の緩みがありました」
2点差あるという安心感によるわずかな隙が勝敗を左右し、高校野球はたった一球で流れが変わることを改めて痛感した。昨夏は自分たちに流れが来た一方で、秋は自らその流れを手放してしまった。
この敗戦をきっかけに、チーム全体では打撃力不足という課題と向き合い、冬は室内練習場で徹底的にバットを振り込んだ。
春季大会ではその成果をぶつけるつもりだったが、正智深谷戦では思うように得点できず、劣勢になった時の悪い流れを断ち切ることはできなかった。
「まだまだ足りなかった」
それでも濱本選手は現実から目を背けず、自分自身とも向き合い続けた。
彼に自身の長所を問うと「諦めが悪いところ」という答えが返ってきた。昨夏は調子が上がらず一度は二番手へ降格したものの、腐ることなくがむしゃらに練習を続け、再びスタメンの座をつかみ取った。
一方で、ミスをすると感情が表情に出てしまうことは自身でも課題だと認識している。しかし滑川総合で過ごした三年間は、その感情を切り替える術を学ぶ時間でもあった。失敗を引きずるのではなく、すぐに切り替えて次に自分が出来ることをする。
昨夏の歓喜も、秋と春の悔しさも経験したからこそ、濱本選手は「流れ」は技術だけではなく、一人ひとりの心の持ち方で変わることを知った。目の前の失敗にとらわれるのではなく、次に自分ができることへ意識を向ける。その積み重ねこそが、最後の夏を戦い抜く濱本選手の強さになっている。

仲間と向き合い、自分も変わった三年間
濱本選手が滑川総合を選んだ理由は、野球部の強さではなく、自身が体験会で感じたチームの雰囲気に惹かれたからだった。
中学までは「指導者の言うことは絶対」という環境で野球を続けてきたが、滑川総合では監督と選手が互いに意見を交わし、自分たちで考えながらチームをつくり上げていた。アップやノックなどの練習で響く選手達の力強い声にも心を動かされ、「ここで野球をやりたい」と自然に思えたという。
高校生活を通して最も変わったことを尋ねると、返ってきた答えは技術面ではなく、「人とコミュニケーションを取れるようになりました」という一言だった。試合中の声掛けや仲間との何気ない会話、ベンチの雰囲気づくりまで、野球は一人では勝てないことを実感したからこそ、人と向き合うことの大切さを学んできた。
昨夏、浦和学院戦で味わった大歓声や秋に経験した一球の悔しさは濱本選手にとって、勝敗以上に多くのことを経験できた。
諦めずに挑み続けること、一瞬の油断が結果を左右すること、そして失敗してもすぐに切り替え、今の自分にできることへ全力を尽くすこと。
その一つひとつの経験は、高校野球を終えた先の人生でも必ず支えになるはずだ。
高校野球の3年間で培った考え方や人との向き合い方が糧となり、彼の更なる人間的成長と未来をさらに大きく切り拓いていくはずだ。

