【滑川総合高校】浦和学院撃破の裏側 滑川総合が信じた「自分たちの野球」【独占】〜夏大直前取材〜

夏の大会を目前に控えた滑川総合高校のグラウンド。

前日から降り続いた雨の影響で、この日の滑川総合高校野球部はグラウンドを使うことができなかった。

選手たちは室内練習場でバットを振り込んだり、体育館やウエイトルームで最後の調整を行っていた。与えられた環境の中で、その日にできる最善を積み重ねている。

一年前、全国屈指の強豪・浦和学院を破り、昨年の埼玉大会で最大の金星を挙げた。

「最大の理由は、精神的なところで負けなかったこと」

今回は滑川総合高校野球部 木持 雄大部長に公立校が全国屈指の強豪校に勝てた理由を伺った。そこには高校野球の弱者が強者に勝てる可能性があるという面白さが詰まっていた。

目次

「勝つ」ではなく「できることをやる」

チームを率いるのは瀧島 達也監督。自身は松山高校でプレーし日本大学へ進学した。

指導歴としては滑川(現・滑川総合)監督時代の1998年に夏の甲子園へ初出場。その後、松山高監督などを経て再び滑川総合高の監督に就任した名将だ。

※ブルペンを囲うネットは、すべて瀧島監督の手作り

107回埼玉大会の3回戦、浦和学院との試合前日のミーティングで、瀧島監督は選手たちにこう伝えた。

「100人に聞いたら、100人が浦和学院が勝つと予想する。ただ、ビビることはしないでほしい。今までできていたプレーが萎縮してできないことや、置きにいったプレーをすることだけはやめよう。自分たちのできることをやろう」

設備、部員数、実績、経験値など。多くの部分で公立高校が強豪私学を上回ることは厳しいと選手たちも理解している。だからこそ勝負の前に必要なのは、怯まないことだった。

前日のミーティングで瀧島監督は選手たちに、浦和学院から何点取れるかを尋ねた。

返ってきた答えは「3得点」では何点以内に抑えられそうか?

その答えは「9失点」だった。

一見すれば、勝利から遠い数字に見えるが、野球は攻撃と守備が分かれたスポーツであり、偶然や流れが入り込む余白がある。

攻撃では相手のミスが絡み、3点のはずが4点、5点になるかもしれない。守備では良い当たりが正面を突き、9点取られるはずが最少失点で済むかもしれない。

試合前日に語られたのは、「勝つ」という言葉ではなく、「自分たちのできることをやろう」。その一言が、選手たちから余計な力みを取り除き、浦和学院に立ち向かう勇気へと変わっていった。

「できること」を貫き掴んだ大金星

高校野球には、力の差を一瞬で詰める瞬間が訪れることが多々ある。

滑川総合は初回から毎回のように安打を浴びた。被安打は11本。ヒットを許さなかったのは8回だけだった。それでも、要所を締め続けた。外野は浦和学院打線を警戒し、フェンス際まで深く守った。向かい風にも助けられ、フェンスを越えてもおかしくない打球が外野フライになる場面もあった。

そして5回、試合は動く。

先頭の4番・橋本選手がチーム初安打を放ち、送りバントで走者を進める。二死二塁となった場面で、初戦4打数4安打の7番・小林選手が敬遠されると、続く8番・石井選手が投手強襲の内野安打で繋ぎ、9番・細野選手がセンターオーバーの走者一掃三塁打を放った。さらに1番・篠崎選手も続き、この回に一挙4点を奪うことに成功した。

滑川総合の攻撃は、8回のうち5回が三者凡退。それでも、たった一度の好機を逃さなかった。4回までノーヒットに抑えられ、毎回ヒットを打たれても滑川総合ナインはポジティブな声を絶やさなかった。

「まだまだこれから!」「どうせ打たれるから気にするな」

迎えた最終回、強力浦和学院打線相手だと3点リードしていても、一振りで追いつかれる可能性も考えられる。普通なら勝利を意識して硬くなる場面で滑川総合のベンチは浮き足立つことなく丁寧にアウトを重ね、歴史的快挙を手にした。

「今できること」が、チームを強くする

昨年の勝利で得た経験は、今年のチームにも引き継がれている。

単純に「自分たちも強豪に勝てる」という自信ではなく、ミスをした後にどう振る舞うか、苦しい場面で何を選ぶかという、試合中の姿勢に表れている。

現チームの選手達が下級生だった頃、試合中にミスをして交代を告げられると、そのまま落ち込んでしまう選手もいた。自分の失敗を引きずり、チームの中で役割を失ってしまうような場面があった。

しかし、現在ではミスをしても切り替え、チームのために声を出すなど、試合に出ていなくても、今の自分にできることを全うする。昨年、強豪を相手にベンチから最後までポジティブな声が飛び続けた記憶が、彼らの中に残っている。

また、今年のチームは昨年のように頭ひとつ抜けた選手が何人もいるわけではない。選手全員が横一線。打撃が良い選手には守備の課題があったり、反対に守備が安定している選手は打撃に課題があったりする。だからこそ、個々の強みを伸ばすために個人練習の時間を多く作り、互いの短所と長所を補い合うチームづくりが行われている。

「できること」を積み重ねた先にある夏

木持部長は、現代の選手たちから学ぶことも多いという。

現在の選手達は部員同士の仲が良く、上下関係にとらわれすぎていない。信頼関係があり、つながりも強いと感じている。例えば全体ミーティングの後に選手同士で話し合い、最後は選手誰かの誕生日をみんなで祝うような空気は、今のチームを象徴している。

一方で、指導を行っている上で物足りなさもあるという。

負けず嫌いな選手が少なく、平和主義で、意見がぶつかる場面があまりないような印象があるという。ぶつかり合いが少ないことは、チームの雰囲気を穏やかにするが、夏の一発勝負では、時に相手を上回る執念や、譲らない強さが必要になることもある。

今年のチームは、秋季大会で熊谷商業にタイブレークで敗れ、打撃を課題として冬を迎えた。冬場は室内練習場で徹底的に打ち込み、春季大会に挑んだが、正智深谷に敗戦した。

現実を受け止めたうえで夏へ向けて練習に励んできた。

夏の鍵を握るのは2人の投手だ。

3年生左腕の両角選手は、160センチ50キロと小柄ながら制球力があり、試合を作る力に長けている。2年生右サイドの小林選手は、出所の見にくいフォームから打者を差し込める直球が武器になる。タイプの違う2枚看板がどこまで試合を作れるかが、滑川総合の夏を左右する。

初戦は大宮南。同じブロックには西武台、川越東、山村学園といった力のあるチームが並ぶ。簡単な道ではないが一球一球を丁寧に自分たちの出来ることを積み重ね勝利を掴みにいく。

最後の夏、勝ち進む可能性を少しでも上げるために、小さな行動の積み重ねを大切にしている。

睡眠をとる。食事を抜かない。ゴミを拾う。

睡眠や食事を取った方が体調面でパフォーマンスが出せる可能性が上がるかもしれない。ゴミを拾ったら運がついてくるかもしれない。

昨年の浦和学院戦もそうだったように、実力差があっても試合の中で一度だけ貴重な流れが来て、その流れを掴み取れるかもしれない。

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