【浦和学院・森大監督】悲願の全国制覇へ。超攻撃野球を支える「成長する選手」の条件【独占】

前日まで降り続いた雨の影響で、この日の浦和学院グラウンドは水分を多く含んでいた。

午前中いっぱいグラウンド整備が行われ、午後練習試合が1試合のみ行われた。

その日の午前中、森監督の姿はグラウンドになかった。

わずかな時間を見つけては大学の授業や学会へ足を運び、選手をより良く指導をするための「指導者の指導行動」を研究している。

全国屈指の名門校である浦和学院の強さを語る際、超攻撃野球や全国から集まる逸材たちに目が向きがちだ。しかし、その土台にはスポーツ科学や心理学を学び続ける指揮官の存在がある。

森監督が追い求めているのは単なる勝利ではなく、選手達が自ら考え、修正し、成長できる集団づくりである。

この考え方こそが浦和学院が甲子園へたどり着くための最大の鍵になっている。

目次

伸びる選手は才能ではなく「改善点」を見つけられる

全国から有力選手が集まる浦和学院。中学時代に実績を残した選手ばかりが集まる環境でありながら、森監督は意外な言葉を口にした。

「中学の実績と高校での成長は比例しない」

浦和学院を選ぶ時点で、多くの選手は高校野球に対する強い覚悟を持っている。寮生活を送る選手も多く、日常の会話から練習への取り組みまで、高い意識を持つ仲間たちに囲まれながら生活することになる。

その中で差が生まれるのは能力ではない。森監督が重視するのは、常に自分の課題と向き合えるかどうかだ。

伸びる選手の特徴として挙げたのは、「何が足りないのかを自分で考えられる選手」。中学時代までは身体能力やセンスだけで結果を残せていた選手も少なくないが、高校野球の世界ではそれまでの武器だけでは通用しなくなる。

壁にぶつかった時、他人や環境のせいにするのか、それとも自分に何が足りないのかを考えるのか。その選択の積み重ねが、正味2年4ヶ月の高校野球生活の中で大きな差となって表れる。

森監督は「過去にはもっと伸びると思った選手もいた」と振り返る。能力は十分にありながら、改善し続ける姿勢を持てなければ、その才能は途中で成長が止まってしまう。一方で、自ら課題を見つけ、試行錯誤を繰り返せる選手は高校卒業後も成長を続けていく。

高校野球は身体能力やセンスだけでなく自分自身と向き合う力を試される場所でもある。

寮を抜け出した投手がプロへ―渡邉勇太朗が残したもの

森監督がこれまで指導してきた中で、最も成長した選手として名前を挙げたのが、現在は埼玉西武ライオンズで活躍する渡邉勇太朗投手だった。

今ではプロ野球選手として知られる存在だが、高校時代は決して順風満帆な道のりではなかった。中学軟式野球出身で入学当初から怪我が多く、精神的な浮き沈みも激しかったという。時には寮を抜け出してしまうこともあり、野球だけでなく生活面でも課題を抱えていた。

当時、浦和学院へコーチとして赴任したばかりだった森監督にとって、渡邉投手との関わりは大学院で学んでいた心理学を実践する機会にもなった。頭ごなしに叱るのではなく、まずは対話を重ねながら何を考えているのか、何に悩んでいるのか、何が不安なのかを丁寧に探っていく。そして、最初からすべてがうまくいくわけではないことを伝えながら、一つひとつ課題を整理し、乗り越えるべき壁を明確にしていった。

その過程で渡邉投手が大きく変わったのは野球の技術ではなく自分自身と向き合う姿勢だった。この経験から森監督は、選手を大きく成長させるのは技術の向上だけではなく、人間的な成長も重要な要素であるという。

さらに卒業後も活躍する選手の共通点を尋ねると、

①身体が強く怪我をしないこと

②苦しい状況でも簡単に折れない忍耐力を持っていること

③そして、痛みや不調があっても冷静に状況を判断し、動けなくなる前に自ら身体をケアできること

プロの世界で長く活躍する選手ほど、自分の身体や心の状態を客観的に把握し、日々の生活を管理する能力に長けている。森監督が挙げた条件は競争の激しい世界を生き抜くためには欠かせない要素ばかりだった。


春に見えた長所と短所。そして甲子園へ必要なもの

この日の練習試合でも、森監督の視線は勝敗ではなく内容に向けられていた。試合は4-0で勝利したものの、指揮官が求めるレベルには届いていなかった。

象徴的だったのは六回の守備だ。先頭打者に出塁を許した後、相手はエンドランを敢行しレフト前へ運ぶ。通常であれば一、二塁で終わる場面だったが、三塁への送球が乱れたことで流れが一変しかねない状況となった。結果的には一塁走者を三塁で刺し最悪の事態は免れたものの、夏のトーナメントであれば勝敗を左右しかねないプレーだった。

春の浦和学院は県大会で55得点を記録し、その圧倒的な攻撃力で頂点に立った。一方で投手陣は県大会で失点が多かったが、関東大会では東京学館浦安戦で2失点、関東一戦では無失点と改善が見られた。しかし決勝の横浜戦では13失点と夏に向けた課題も見られた。

超攻撃野球は間違いなく浦和学院最大の武器であるが、森監督が見据えているのは、その武器のみで勝つことではない。

甲子園へ出場するチームではなく、甲子園で勝ち抜くチームになるために何が必要なのか。その問いに対し、選手たちが掲げた答えが春季関東大会決勝で敗れた「横浜レベルのスピード感」だった。

それは打球速度や走力だけではなく、状況を把握し次のプレーを予測する早さ、試合の流れを読み取る早さでもある。すなわち、試合を支配するための攻撃力や判断力と準備力の底上げだ。

その意識は健大高崎との練習試合でも見られた。相手の速い試合運びに飲み込まれることなく、守備からリズムを作り接戦をものにしたことで、チームとしての手応えも得られた。

課題を一つクリアしても森監督は満足しない。

試合中のサインプレーや点差ごとの攻め方、相手守備シフトへの対応など、あらゆる状況を選手同士で議論しながら最適解を導き出せる集団を目指しているからだ。

ただ勝つだけなら方法はある。しかし、なぜその攻撃を選ぶのか、なぜその守備位置なのかを選手自身が理解し、仲間と共有できるレベルに達したチームこそが甲子園へ出場している傾向があるという。

森大監督が求めるのはただ勝てる選手ではなく、考え続けられる選手。その積み重ねが、悲願の夏の全国制覇へとつながっていく。


【取材後記】 埼玉頂点のその先へ。浦和学院が追い求める全国制覇

浦和学院は今年も優勝候補として夏を迎える。

だからこそ対戦校は打倒・浦和学院のために準備を重ねてくるため、大差で勝つ試合以上に接戦をものにする試合の方がはるかに難しい。その為の圧倒的なチーム作りに立ち会うことができた。

しかしながら甲子園への道は圧倒的な強さだけで切り開けるものではなく、苦しい展開の中でも修正できる力と、自分たちで答えを探し続ける力が求められる。

心理学を学び続ける森大監督が育てようとしているのも、単に野球が上手い選手ではなく課題を見つけ、自ら考え、改善を繰り返せる人間であり、その積み重ねこそが最後の夏の一球を左右すると考えている。

夏の大会まで残された時間は決して長くない。

それでも選手たちは、自ら掲げた「横浜レベルのスピード感」を追い続けながら、超攻撃野球の破壊力と勝負所で揺るがない守備力の両立を目指している。

その二つがかみ合った時、浦和学院は再び甲子園への扉を開く。

浦和学院が見据えているものは埼玉の頂点ではなく、悲願の夏の全国制覇である。

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