97人全員で甲子園へ――蜂巣祥万が惹かれた浦和学院の野球
蜂巣選手が浦和学院を選んだ理由は、森監督から声が掛かったからと話す。
埼玉屈指の強豪・浦和学院には、独特の雰囲気がある。練習は厳しいが選手たちが仲が良いだけではなく全員が同じ方向を向き、同じ熱量で戦っている。その中心に立つのが、主将・蜂巣祥万だ。
167センチ、70キロ。決して大柄ではない。
彼は栃木県矢板市で野球を始め、小学2年からバットを握った少年は、埼玉西武ライオンズジュニア、県央宇都宮ボーイズ、東日本選抜と、常に高いレベルの舞台で経験を積んできた。代表チームでも主将に抜擢され技術に加え「勝つための考え方」を幼少期から磨いてきた。
「メンバー、メンバー外は関係ない」
ベンチ入りの25人だけが戦うのではない。部員97人全員で勝つ。それは理想論ではなく、このチームの前提だ。蜂巣選手はその思想に惹かれた。そして今、自らが主将として中心に立ち、甲子園を目指し日々白球を追いかけている。
正論をぶつけるだけでは、人は動かない
「浦和学院の強さはどこにあるのか」という問いに対し、蜂巣選手は迷いなく「チーム全体の熱量」と答える。上下関係に縛られすぎることなく、それでいて馴れ合いにもならない。全員が「甲子園」という一点に向かって、同じ強度で日々を過ごしている。その空気を維持することこそ、主将の役割だ。
だが、それは簡単なことではない。高校生は多感な時期でもあり感情の起伏が多い年代だ。うまくいかない日もあれば、気持ちが乗らない日もある。だからこそ蜂巣選手は「指摘の仕方」にこだわる。
選手を注意する際、ただ正論をぶつけるのではなく、どうすれば相手に届くかを考える。どう寄り添えば、もう一歩踏み出せるのかを探る。その積み重ねが、チームをひとつにしていく。
「軽いプレーはできない」一球に魂を込める主将の覚悟
「軽いプレーはできないんです」
練習での一球、一歩に、どれだけ魂を込められるか。試合でのミスは、準備の結果でしかない。だからこそ、日常の密度を高める必要がある。
ミスが出れば、その場で全員が集まり、原因を共有し、次に生かす。それが浦和学院の日常である。
投げる、打つ、走る、声を出す。部員全員が今出来ることを全力でやる。この意識こそが軍隊野球と言われる高校野球ファンを魅了する浦和学院の一体感に繋がっている。
また蜂巣選手自身の強みは、打撃にある。
パンチ力のあるコンパクトなスイングに加え、小技や走塁でも相手を揺さぶる。試合の流れを読み、切り込み役として機能する存在だ。
だが、その一方で課題も明確だ。冬に外野へコンバートされたばかりで、外野手として守備の経験値はまだまだ足りない。
新しいポジションに挑むことは、どんな役割でも受け入れ、チームのために最善を尽くす。その姿勢こそが、蜂巣選手がチームをまとめる中心として模範となっている。

秋の悔しさを、夏への力に変えて
浦和学院が試合で大切にしているのは、先制点だという。
流れは自分たちで引き寄せるもの。そのために、蜂巣選手は相手を徹底的に分析する。球種、守備位置、走力、癖。すべてを頭に入れた上で、一球に向き合う。準備が結果をつくる。
彼には忘れられない試合がある。昨秋の埼玉大会決勝、花咲徳栄戦。
3回に先制点を取り勝てるはずの試合だったが、5回に逆転され普段とは違う空気に飲まれ、チームは崩れた。「テンパってしまった」と蜂巣選手は振り返る。その敗戦は、単なる一敗ではなくチームの未熟さを突きつけられた。
その悔しさに加え関東大会では山梨学院に敗れ、選抜出場を逃した。甲子園まであと一歩届かなかった。そのすべてを受け止めた上で、「夏は必ず甲子園へ」という目標を再認識した。
秋季大会で敗戦した悔しさからこの冬、チームは劇的に変わった。
投手力も打撃もただ強化されただけでなく、夏の甲子園という“目標”に全員が向いて努力をしてきた。
変化は、身体にも現れている。食事への意識が大きく変わった。朝500グラム、夜500グラム。量だけではない。トレーナーや外部の栄養指導を受け、何を、いつ、どう食べるかを学んだ。その結果、打球の飛距離は伸び、球の強さは増し、走力も向上した。野球は技術だけではない。日常の積み重ねが、すべてを左右する。
グラウンドには、今日も声が響く。その一つひとつが、夏へとつながっている。
あの秋、あと一歩届かなかった場所へ。
97人全員で、もう一度、甲子園への切符を掴みにいく。

【取材後記】蜂巣選手のリーダー論“全員で挑む夏”
蜂巣選手は主将としてチームを引っ張る立場でありながら、決して上から統率するのではなく、仲間の感情に寄り添いながら前へ導いていく。その姿勢に、浦和学院が掲げる「全員野球」の本質を見せてもらった。
97人という大所帯の中で、多感な高校生それぞれの想いを束ねることは容易ではない。それでも蜂巣選手は一人ひとりと向き合い続けチームには一体感が生まれている。
昨秋の悔しさを、ただの敗戦で終わらせず決勝の花咲徳栄戦も関東大会での山梨学院戦の敗戦を糧にチームを内側から変えていった。
あの秋に届かなかった場所へ。97人全員で挑む夏の物語はすでに始まっている。

