【川口工業・藤川大輝主将】川口工業で学んだ“人としての成長”【独占】

夏の大会を1ヶ月後に控えた川口工業野球部。この日は校内合宿の最終日だった。

グラウンドでは練習試合が行われており、選手たちの活気ある声が響いていた。

今回は南部地区予選代表決定戦を延長タイブレークの末に蕨高校に勝利し春の埼玉県大会出場を果たした川口工業野球部の藤川主将に話を伺った。

目次

「このチームでやりたい」そう思えた場所

彼が野球を始めたのは小学3年生の頃だった。中央グッドボーイズ(川口市)で白球を追いかけ、その後は駿台学園中学校へ進学して野球を続けたが、当時は今のようにチームを引っ張る存在ではなかった。

高校進学を考えた際、藤川選手には譲れない条件があった。それは学校に専用グラウンドがあること、そして自分の好きなものづくりを学べることだった。

川口工業はその両方を満たしていた。

機械科で学びながら野球に打ち込める環境があり、実際に練習や試合を見学した際にはチームの雰囲気や指導方針にも強く惹かれたという。

公立中学校の球児と比べると引退が遅かったので練習会には参加できなかったのですが「川口工業の試合や練習を見て、監督の方針やチームの雰囲気に共感しました。このチームで野球をやりたいと思いました」

甲子園常連校や強豪校への進学を希望する選手が多い中、藤川選手が求めていたのは自分が成長できる場所だった。

結果として川口工業での彼の野球生活は選手としてだけではなく、一人の人間として大きく成長する時間になった。

主将になったのではなく、主将になれる人間へ変わった

川口工業の主将は監督の独断で決まるわけではなく、まず選手同士のアンケートによって候補者が絞られ、最後に指導者が決定する仕組みである。

つまり主将になるためには監督からの評価だけでなく、仲間からの信頼も必要になる。

その中で藤川選手が選ばれたことは彼にとって大きな成長に繋がった。

「以前は自分のことばかり考えていましたし、周りに指示を出すこともできませんでした」

そんな藤川選手を変えたのが天内監督だった。

技術指導だけではなく、人としてどうあるべきかを教わり、少しずつ周囲を見る余裕が生まれていった。

誰が困っているのか。今チームに必要なことは何か。自分が動けば解決できることはないか。そうしたことを考えながら行動できるようになったという。

「観察力や周りへの気配りができるようになりました。今は先回りして物事を考えられるようになったと思います」と語る彼は誰よりもチームのことを考えて行動している。

一球へのこだわりが教えてくれたもの

春の南部地区予選代表決定戦。川口工業は蕨高校と対戦した。

初回に4点を先制したものの、同点に追いつかれ試合は接戦となった。9回裏には2点差あったものの勝利目前で追いつかれ、延長タイブレークへともつれ込んだ。

あと少しで勝てるはずだった試合が振り出しに戻る。ベンチには不安もあった。

「正直、大丈夫かなという気持ちはありました」

それでもチームは崩れず最後は10対9で勝利し、県大会出場を決めた。その経験は藤川選手にとって大きな財産になった。

「逆境で勝ち切れた経験は今後に生きると思います」

一方で県大会では初戦で熊谷商業に敗れた。

昨秋にも敗れている相手だっただけに、冬を越えた成長をぶつけたい思いは強かったが、初回から四死球で走者をため、満塁本塁打を浴びて流れを失う。

野球の難しさを改めて感じる試合だった。

わずか一球の甘さが失点につながり、試合の流れを大きく変えてしまう。

藤川選手はライトとしてでなく投手としても登板するマルチな選手である。

春季大会で1球の怖さを痛感し、夏へ向けて球速アップよりもコントロールを磨いているという。

彼の持ち味は変化球でカウントを整え、コーナーへ投げ分ける。打者を打ち取るための準備を徹底し、テンポ良く試合を作ることでき、チームにもリズムが生まれる。

藤川選手が自身で挙げる課題については投手としてのフィールディングや牽制、外野手としての一歩目の反応、打者としての得点圏での一本など、自身の短所についても明確に見えている。

長打がなくても勝てることを証明したい

今年の川口工業は長打力で圧倒するチームではなく単打をつなぎ、走塁では常に次の塁を狙い、守備で確実にアウトを積み重ねていく野球だ。

藤川選手自身も投手として打たせて取るタイプであり、その考え方はチームの方針とも重なる。

強豪校と互角に戦える公立高校を目指すためにお手本のようなチームを目指している。

超高校級と言われる選手が不在な中、実際に勝敗を分けるのは、走塁の判断やカバーリング、一歩目のスタートといった細かなプレーであることを理解している。

最後の夏、その先にあるもの

高校野球は残酷であり、どれだけ努力を積み重ねても最後まで試合を行うのは甲子園決勝で戦う2校となる。多くの3年生の高校球児たちは敗戦とともにユニフォームを脱ぐことになるが、それでも選手たちは夏に挑み、そこでしか味わえない時間や感動を経験することとなる。

藤川選手にとって川口工業で過ごした日々は、単に野球技術を磨く時間ではなかった。

周りを見る。仲間のために動く。自分の役割を理解する。そしてチームのために自分が何ができるかを考えること。

かつて自分のことばかり考えていた少年は、今ではチーム全体を見渡しながら行動する主将に成長した。

仲間を見る力を身につけた主将の視線は、目の前の一勝だけではなく、その先にあるチームの未来へ向いている。

取材後記|野球だけではなく、人としての成長

藤川選手に話を伺っていると、自身の事よりも仲間やチームについて語る時間の方が長かったという印象を受けた。

かつては自分のことばかり考えていたという選手が、「チームについて」を自然と口にする。その姿からは主将という肩書きではなく、人としての成長が感じられた。高校野球は技術や勝敗だけでなく、それ以上に人との向き合い方が選手を成長させることを教えてくれる。

最後の夏、川口工業が勝ち進んでいく姿と合わせて、彼がどのようなリーダーシップを取りチームをまとめ上げていくのか。その姿にも注目したい。

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