
春の県大会出場を懸けた南部地区予選 代表決定戦。
川口工業は蕨高校との延長タイブレークを10対9で制した。スコアだけを見れば劇的な勝利だったが、内容は苦しいものだった。
冬を越え、自信をつけて迎えた春の大会だったが、その中で改めて突き付けられたのが一発勝負の怖さだった。
初回に4点を先制しながらも失策や四死球が重なって2回裏に試合は振り出しに戻る。9回裏には2点差を追いつかれ、勝利まであと一歩のところでタイブレークとなったが、それでも最後は勝ちきった。
川口工業の天内監督にこの試合の話を伺うと得たものは接戦を勝ち切れたこと。課題は試合の随所で現れた「記録に残らない小さなミス」だという。
「練習試合では強豪校相手にも勝てていた。ただ、小さなミスへの危機感が少し甘かった」
四死球から崩れる投手陣や小さなミス、これは練習試合とは違う公式戦特有の緊張も関係している可能性がある。
苦しい試合だったが県大会出場を懸けたこの春の一勝は夏につながるはずだ。
埋まらなかった熊谷商業との差
タイブレークを制し、迎えた県大会初戦の相手は昨秋にも敗れている熊谷商業だった。
冬の厳しい練習を乗り越えた選手たちも確かな成長を感じていたが、現実は厳しかった。
初回に四死球や満塁本塁打を浴びいきなりの5失点。2回には2点を追加され7点差のビハインドとなる。
3回からはこの冬で大きく成長しエース格となった古川選手の好投が光り試合を立て直した。
5回には1点をもぎ取るも8回にはホームランを浴び8回コールドゲームが成立。
「選手たちも厳しい冬を乗り越えましたが熊谷商業との実力差は埋まっていませんでした」
と語る天内監督だが、敗戦の中にも収穫を見出していた。
3回からマウンドに上がった2年生の古川選手は力強いストレートを武器に打者へ向かっていく姿は、投手力の成長を感じる試合となった。
その姿は、敗戦の中で見つけた夏への希望でもあった。
川口工業が夏を戦うための課題と収穫、その両方を持ち帰った春季大会となった。
長打力がないからこそ磨くもの
今年の川口工業は昨年のチームとは少し色が違い飛び抜けた長打力があるわけではないという。
だからこそ、走塁や中継プレー、コーチャーとの連携、カバーリングなど、勝敗を分ける細かな部分を徹底し全員野球で勝利を掴みにいく。
記録に残る失策はもちろんのこと記録に残らないエラーをなくしていく。
一つのプレーで試合の流れは左右される。
長打が出ないからこそ、走塁や守備での一歩目、送球ミスをなくすなど細かいプレーにこだわる。強豪校に勝つためにはこのような細部を徹底していくことが勝利の鍵となるはずだ。
セカンド送球1.8秒が生み出す安心感
今年の川口工業が練習試合で勝ち切れている理由を聞くと、二つの要因があった。
一つ目は投手陣が充実したこと、二つ目は捕手の金子選手の存在だという。
昨秋までは原田選手がエースとして投手も1番打者も務め、負担が大きかったが現在は原田選手、藤川選手、古川選手、藤澤選手とタイプの異なる投手陣がチームを引っ張っている。
また、捕手の金子選手の武器はセカンド送球は1.8秒に迫る強肩だ。
高校野球では十分にトップクラスの数字であり走者は簡単にスタートを切れない。
投手は打者との勝負に集中できるようになり、金子選手の強肩がチーム全体に与える影響は非常に大きい。
それぞれの選手の個性を尊重し、まとまったチームが、この夏どこまで勝ち上がるのか。
今年の川口工業も面白い存在になりそうだ。
取材後記「古豪復活への足音」
天内監督が口にした「記録に残らないミス」。
普通の公立校が選手一人一人のポテンシャルが高い強豪校を倒すには 一歩目のスタート、走塁判断、カバーリング、仲間同士の声掛けなどそうした細部へのこだわりが必要不可欠だ。
川口工業は過去には甲子園出場を経験しているが、かつては部員が9人しかいない厳しい時代があった。それでも地道な積み重ねを続け、近年は県大会常連校となり古豪復活へ近づいている。
夏の大会で彼らが積み重ねてきた細部へのこだわりが、どんな結果につながるのか楽しみでならない。

