
2025年夏、甲子園初出場を果たした叡明野球部の新チームの主将に任されたのは、甲子園で三塁コーチャーを務めていた鈴木彩生(すずき・いろは)だ。身長170センチ、体重70キロ。セカンドや投手としてマルチにチームへ貢献しているが、プレーヤーとしてだけでなく、得点に直結しチームの勝敗を左右する重要な役割を担う彼は、声と判断力でもチームを動かしてきた。新主将としての思いを尋ねると、決意に満ちた言葉が返ってきた。
甲子園が育んだ責任感
昨年の叡明は3年生が中心のチームだった。猛練習を積み重ね、激戦区埼玉大会を勝ち抜き、初の甲子園出場を成し遂げた。その大舞台で鈴木選手も多くを学んだという。
「3年生が僕たちに甲子園という経験をさせてくれた。あの場所に立てたことは本当に大きいし、先輩たちは“お前が後輩達を引っ張っていってほしい”と背中を押してくれた。だからこそ、主将を任された以上は、その思いに応えなければならない」
甲子園の歓声と悔しさを経験し、新チームに還元し再度甲子園の土を踏むために主将として、チームをまとめあげていく。

三塁コーチャーとしての視点
鈴木選手は甲子園で三塁コーチャーとしてチームの得点機会を最大限に広げる重要なポジションを担った。彼は細やかな観察と瞬時の判断を常に意識している。
「まずは相手の守備位置を把握すること。試合前のノックでは外野手の打球への反応スピードや肩の強さをチェックする。そこに相手投手の特徴を組み合わせて、次の打者がどういう打球を打つのか、チームとしてどのようなサインが出るか予測しながら、ランナーをホームに回すか、三塁に止めるかを決める」
一瞬の判断が勝敗を左右する役割だからこそ、誰よりも冷静でいなければならない。鈴木選手はベンチとグラウンドをつなぐ「目」として、そして「声」としてチームを動かす。
新チームの課題と強み
また、叡明野球部はチーム向上のテーマとして「足と声」を意識している。言動の質を向上させ、スピード感を持って行動することを徹底していく。
「甲子園に戻るためには、メリハリのあるチームでなければならない。練習では徹底して厳しく、試合では全員が質の良い声を出しあいスピード感を出していく。攻撃でも守備でも“足と声”を武器にしていきたい」
前チームは守備力を武器に甲子園へたどり着いたが、新チームはまだその域に達していないという。
「まだまだ守備の連携ミスが目立つ。前チームは守備から攻撃に繋げる野球が徹底出来ていた。だからこそ一段一段レベルアップしていかないといけない」
主将として冷静に課題に向き合い、現状を認識しチームのレベルアップに励んでいく。
ただ、課題ばかりではない。新チームには明確な強みもある。
「全員が仲が良い。上下関係はもちろんあるけれど、越えてはならない部分はみんな理解している。そのうえで、節度を持って生活できているのが大きな強みだと思う」
結束力のある集団は、大会が進むほど強さを発揮する。前チームの快進撃の土台にも、こうした人間関係の良さがあった。鈴木選手もまた、その雰囲気を継承しつつ、さらに進化させようとしている。

主将としての役割を全うし再び甲子園へ
主将としての役割を問うと、彼は「周りを見て全員を動かすこと」と即答した。
「常にみんなが動いている状態をつくる。今できることを徹底してやる姿勢をチームに浸透させていきたい。口だけでなく、行動で示していくのが自分の役割」と語る。
その姿勢は、前主将の根本選手を手本としているという。
「根本さんは言葉でもプレーでも常にチームの先頭に立っていた。ああいう姿に憧れてきたし、自分もそういう主将でありたい」
直近で見てきた先輩を理想像を胸に抱きながら、自らもその姿に近づこうとしている。
鈴木選手の視線の先にあるのは、もちろん「甲子園」だ。経験したからこそ、その舞台の価値を痛感している。
「もう一度甲子園に戻りたい。」
甲子園を知る新主将の言葉は、チームメイトたちを突き動かす力となるだろう。

【まとめ】理想を超えて未来へ 新主将が導く挑戦
鈴木選手は、三塁コーチャーという重要な立場から全体を見渡し、声と判断力でチームを動かしていく。
取材を通じ、主将としての責任感、仲間への思い、そして再びの甲子園を目指す強い決意。すべてを背負いながら、新主将は前を向く。
「足と声」でチームを向上させ、理想の先輩達を超える日を胸に。
叡明高等学校野球部の新たな挑戦は、まだ始まったばかりだ。