埼玉大会を勝ち抜き、第107回全国高等学校野球選手権大会に初出場した叡明高校野球部。ついにたどり着いた夢舞台での戦いは、選手たちにとっても指導者にとってもかけがえのない経験となった。中村要監督は、甲子園での時間を振り返りながら、新たにスタートを切ったチームへの思いを語ってくれた。
甲子園で得た経験と学び
埼玉大会を制し、甲子園出場を決めてから実際に津田学園との初戦を迎えるまでの期間はわずか10日間だったという。中村監督は「優勝の喜びに浸る間もなく、とにかく準備に追われた」と振り返る。
「甲子園練習は15分しかなかったが、そこに特別なことは求めなかった。今まで通りやるべきことを積み重ね、普段通り叡明の野球をすることを大切にした。甲子園だからといって構えず、自然体で挑もうと心がけた」
夢舞台に立つ選手たちを送り出す指揮官として、環境の変化に振り回されず、いつも通りの野球を貫く姿勢が強調されていた。
津田学園との試合では、「選手たち全員が持っている力を存分に発揮し、ナイスゲームができた」と語る。
また相手の堅実な守備力に触れ、「守備の完成度が本当に素晴らしかった。技術面もそうだが、プレーの一つひとつに隙がなく、学ぶ部分が多かった。我々も守備からリズムを作るチームですが相手のプレーが素晴らしかった」とも振り返った。
結果以上に、甲子園で全国の強豪と互角の戦いをできた経験や気づきは今後の叡明野球部としても大きな財産になったはずだ。
「変わらない叡明の野球」を貫く姿勢
春季大会では埼玉で準優勝。関東大会では山梨学院相手にタイブレークで惜しくも敗れた。
その悔しさをバネに練習に励んだ結果、この夏埼玉の頂点を掴み、甲子園初出場を決めた。

甲子園での激闘は地元のショッピングモールでもパブリックビューイングが行われ、多くの市民、高校野球ファンが胸を熱くした。
これをきっかけに、学校や地域からの注目度は一気に高まった。しかし中村監督は「やることは変わらない」と言い切る。
「叡明の野球は全員野球で守備からリズムを作り、攻撃に繋げるスタイル。甲子園に出たからといって特別に形を変えることはしない。注目されていても、今まで積み重ねてきたものを続けることが大事」と語る。
一つ一つ着実に階段を登り、華やかな舞台を経験しても、自分たちの土台を崩さず日々練習に励み次のステージを見据えている。
新チームの競争と可能性
秋へ向けて始動した新チームについて問うと、「まだチームとしてのカラーは出ていない」と率直に語る。
「この夏に試合に出た選手たちは、その経験を周りに還元してほしい。ただ誰が主力、誰がレギュラーという確定はなく、全員にチャンスがある。夏に出た選手が外されることもあるし、新たにレギュラーを掴む選手が出てくることもある」
公平な競争の場を設け、全員が努力次第でスタメンを勝ち取れる環境を整え、次世代へと繋いでいる。
「甲子園を経験したからといってプレッシャーは感じない」「甲子園を知る(経験した)選手がいることは強み」と中村監督は語る。
「叡明らしく活動していくことが一番。勝利だけに執着するつもりはない。野球を通じて社会に出ても通用する人間性を育てることが1番大切」
勝敗以上の価値を、部活動に求める姿勢がにじみ出ている。甲子園はゴールではなく人生においての通過点。日々の様々なプロセスや失敗からヒントを与え成功体験を得て、選手たちが将来、社会で活躍できる人間に成長するための指導が根底にある。

新主将・鈴木彩生が担うリーダーシップ
新チームのキャプテンには、鈴木 彩生(すずき いろは)選手を抜擢した。中村監督がその理由を語る。
「鈴木は甲子園で三塁コーチャーを任せていた選手。誰よりも状況判断に優れ、広い視野を持っている。ベンチや仲間にしっかり指示を出せるタイプで、チームをまとめていける力がある」
冷静な判断力と統率力を重視した起用には、全員野球を掲げる叡明らしさが表れている。

【まとめ】初の甲子園を経て次のステージへ
叡明高校にとって、初の甲子園出場は大きな出来事だった。
しかし中村監督の言葉にあるのは、過去の栄光を誇る姿ではなく、「今」を大事にし、次の一歩を踏み出そうとする姿勢だった。
「甲子園を経験したことは財産だが、それをどう生かすかはこれから次第。常に挑戦者の気持ちを忘れずに、選手一人ひとりが努力し続けることが必要だ」
埼玉の地から全国を経験した叡明野球部。その挑戦はまだ始まったばかりだ。