第107回全国高校野球選手権・埼玉大会は、7月21日の5回戦を終えてベスト8が出揃った。例年以上の熱戦が続いた激戦区・埼玉大会では、私学の絶対王者たちの敗退が相次ぎ、浦和学院・花咲徳栄・春日部共栄という“埼玉BIG3”がいずれもベスト8を前に姿を消した。
一方で、躍進する公立勢、新興校が確かな存在感を示し、新時代の幕開けを感じさせる夏となっている。
ベスト8進出校(7月21日時点)
・浦和実業(私立)
・伊奈学園(公立)Dシード
・昌平(私立)
・川越東(私立)Bシード
・西武台(私立)Dシード
・山村学園(私立)Dシード
・聖望学園(私立)Dシード
・叡明(私立)Aシード
波乱①:浦和学院、3回戦で敗退。淡すぎた幕切れ
滑川総合が今夏最大の番狂わせを演じた。
春季大会で優勝、関東大会出場を果たすなど安定感を誇っていた浦和学院が、まさかの3回戦で姿を消した。7月15日の3回戦で、優勝候補筆頭の浦和学院を4-1で撃破。殊勲の活躍を見せたのは、捕手兼投手の篠崎 陽輝選手(3年)だった。6回まで正捕手として石井 健太郎投手をリードし8安打を浴びるも要所を締め1失点に抑えた。7回からはマウンドに上がり3回無失点の好救援。巧みな投球術で打者を翻弄し、試合を締めくくった。打っては4点目の適時打を放つなど攻守にわたる活躍で大金星に貢献した。
波乱②:昌平、前年決勝のリベンジを果たす。花咲徳栄、4回戦延長タイブレークで力尽く
梅雨が明けた7月19日。
かつて全国制覇を果たした花咲徳栄もまた、4回戦で昌平との激戦の末1–5で敗退した。
昌平が花咲徳栄に延長10回タイブレークの末、サヨナラ勝ちを収め、昨夏決勝の雪辱を果たした。初回に相手失策で先制した昌平は、その後打線が沈黙するも、エース窪田 竣介選手が強力打線相手に8回まで無失点と力投。9回に追いつかれたが、タイブレークに突入した10回、諏江 武尊選手が左翼への劇的な満塁本塁打を放ち試合を決めた。諏江選手は昨年決勝で失策と三振を喫し涙をのんだが見事リベンジを果たした。
全国制覇から8年。打撃を武器に夏の埼玉をけん引してきた花咲徳栄が、今年は昌平の強力打線に涙をのんだ。
波乱③:春日部共栄も敗退、“埼玉BIG3”全滅
強豪・春日部共栄も、7月21日の5回戦で西武台と対戦し、延長10回の末に敗れた。
19日4回戦ではのBシード・市立川越を撃破し、好調を維持していたが、最終盤の1点が遠かった。
21日の3回戦で西武台が延長10回タイブレークの末、8-3で春日部共栄を下し、2年連続で夏のベスト8進出を果たした。序盤から互いに得点を重ねた一戦は、中盤以降は投手戦となり3-3のまま延長戦に突入。10回表、西武台はこの回先頭の田代 寛人選手の打球が相手失策を誘い1点勝ち越しに成功すると、連打や犠牲フライ等でつなぎ一挙5得点。10回裏は9回から登板したエース吉良選手が無失点で抑え、勝利を手にした。
これにより、今世紀に甲子園を何度も賑わせてきた強豪3校(浦和学院・花咲徳栄・春日部共栄)がベスト8進出を逃す異例の展開に。埼玉高校野球の“勢力地図”は、大きな揺らぎを見せている。
公立&新興勢の躍進:大宮北・上尾
一方、強豪校の影で光るのは、挑戦者たちの躍進だ。
大宮北
52年ぶりの夏ベスト8進出を目前にした5回戦、聖望学園に13–12で敗退。4回表時点で12–3と9点差をつけていただけに、逆転負けはまさに“波乱の象徴”だった。それでも2回戦では川越総合を10-0、3回戦で所沢北に9–0、4回戦で浦和西に13–3と快進撃を演じ、チームの打撃力は確かだった。
上尾
21日に行われた5回戦で、埼玉の伝統校・上尾が昌平に3-10(8回コールド)で敗れ、今夏の戦いを終えた。上尾は5回までに1-4とリードを許すも、7回に根岸 大河選手の適時打で2点を返し、1点差に迫る粘りを見せた。しかしその裏、昌平に一挙5点を奪われ試合の流れを失うと、8回にも追加点を許しコールド負けに。上尾はこれまで7度の甲子園出場を誇る名門。今大会は私学の城西大川越に延長タイブレークで勝利するなど健闘したが、私学の壁に阻まれ、ベスト8入りはならなかった。
30年ぶりベスト8 唯一の公立校:伊奈学園の快進撃
7月21日。私立・埼玉平成との5回戦を6-5制した伊奈学園が1995年以来、実に30年ぶりとなる夏の県大会ベスト8進出を果たした。創部41年目での快挙に、スタンドではOBや卒業生たちが歓喜の声を上げた。
初回から4番・岩本 航平選手の適時打を皮切りとして、3回までに5点を先制。しかし中盤に同点に追いつかれ流れが埼玉平成に傾きかけたが、同点に追いつかれた直後の7回裏の攻撃で死球2つと2安打で貴重な1点をもぎ取り、ベスト8進出を決めた。
チーム一丸となった守りと粘りで、激戦をものにしてきたチームワークを武器に、今大会唯一のベスト8の公立校として、甲子園出場を狙う。
ベスト8組み合わせ(7月23日開催)
・昌平 vs 川越東
→両チーム2回戦からの4試合で35得点の強力打線同士の戦いとなる。
・浦和実業 vs 伊奈学園
→“公立の星”伊奈学園が、選抜ベスト4の浦和実業とどう戦うかが大きな焦点
・西武台 vs 山村学園
→横田選手率いる山村学園と強豪・春日部共栄を撃破した西武台の集中打に注目
・聖望学園 vs 叡明
→叡明の田口選手・増渕選手のWエースに対し、聖望学園の強力打線がどう攻略するかが見どころ
新時代の埼玉大会へ
「波乱」。そんな言葉がふさわしい。
浦和学院・花咲徳栄・春日部共栄というBIG3が涙をのんだ今大会。
”僅差の投手戦・打撃戦”、 ”コールド近い点差からの逆転劇”や”タイブレークでの劇的な幕切れ”など波乱が毎日の熱戦で繰り広げられている。
準々決勝以降、どの高校が勝ち残るのか。埼玉の夏は、いよいよ佳境を迎える。