埼玉県の進学校として2011年4月に開智未来高校が開校した。その野球部は、勉強と部活動の両立を大前提に、文武一体を体現する球児たちが日々汗を流している。その中心に立つのが、創部から指導に携わる伊東悠太監督(38)だ。
指導理念は「世界平和を考え、行動できる人材の育成」。
野球を通じて人間力を育てる教育者としてのまなざしが、部員一人ひとりに向けられている。

創部ゼロからの挑戦。夏初勝利までの道のり
開智未来高校野球部は、2014年に伊東悠太監督がゼロから創部したチームだ。当初は部員わずか1人からのスタート。部活動の経歴としては軟式野球部として4人で1年間活動し、その後部員数が9名を超え、2017年に硬式野球部へと移行した。
2024年度には野球部が強化指定部に認定され、現在は3年生3名、2年生19名、1年生22名と活気ある組織に成長している。
開智未来高校野球部を指導しはじめてから印象に残っている試合は2024年に念願の夏初勝利を飾ったこと。毎年のように敗戦を喫してきたが、創部以来、着実に歩みを進め涙を流してきた選手たちにとって、この勝利は非常に感慨深いものだった。創部以来、長年チームを率いてきた伊東監督にとっても「指導を通じて一番うれしかった瞬間」と語った。
守・破・離のチーム作り
伊東監督が掲げる指導の柱は「守・破・離(しゅ・は・り)」の三段階に分けた育成方針だ。1年間と3年間の2つの時間軸で選手の成長を見据える。
1年目(8月〜10月)は「守」。まずは型を守ることから始める。礼儀、整理整頓、基礎体力、基礎技術。野球に限らず、人としての土台を整える段階だ。
2年目(11月〜3月)になると「破」へ。個々が自分に合った練習メニューを考えたり、チームの戦術を俯瞰して見る視野を養っていく。
そして3年目(4月〜7月)は「離」。自ら考え、自ら行動する。試合のサインも選手が出す。監督がいなくても戦えるチームを目指す段階に入る。
例えば5月、6月の練習試合では、3年生の部員が自ら采配を振るい、チームを指揮する場面もあるという。こうした過程を通して、球児たちは単なる技術だけでなく、自立心と責任感を養っている。

「文武一体」勉強も野球も本気で
開智未来のもう一つの特徴が「文武一体」の取り組みだ。部員たちは野球だけでなく学業にも力を入れており、東京大学、北海道大学、早稲田大学など難関大学への合格実績もある。
伊東監督は、選手と指導者の距離を近く保ち、「監督も仲間」という姿勢で接している。「水を飲めない」「叩かれる」といった昭和的指導を否定はしないが、自身のチームでは選手が伸び伸びと成長できる環境を優先している。
創部以来、坊主頭の強制もなく髪型は自由としている。実際は坊主の方が寝癖が付かずラクという側面もあるが、「髪を整え、顔を洗い、身支度を整えて登校する」という習慣は、自律した社会人への第一歩になると考えている。
部活動を学校生活の延長として捉え、「大会=受験本番」「練習試合=模試」「練習=授業」という明確な教育的視点を持つのも特徴だ。
実践と経験の場。合宿と遠征
開智未来では毎年8月に関西遠征を行い、甲子園での野球観戦を行なっている。甲子園常連校との練習試合も組まれ、選手たちに目標を明確に持たせ、「ここで試合がしたい」と感じることで、練習へのモチベーションにも繋がる。
また冬には日大三高のトレーニングを参考に、選手を徹底的に追い込む合宿を実施。春にはその成果が表れるという。「努力できる人間、諦めない人間」への成長を促す。
人間教育と信頼関係の構築。自ら考え行動する球児たち
創部当初から伊東監督が掲げるのは「田舎らしく、人間味のある温かなチーム」。選手たちや保護者、指導者が同じ方向を向き、気軽に意見を交わし合える環境を大切にしている。指導の中心には「共育(共に育つ)」という言葉がある。
保護者を含め、野球部を通じて「青春」を共有できるように。OB・OGが結婚や出産、人生に悩んだ時にグラウンドへ戻ってこられるような、温かな居場所としての野球部を目指している。
伊東監督の指導は野球だけにとどまらない。世の中の出来事を「自分事」として考える機会を重視している。2024年度には、埼玉県八潮市の道路陥没事故による節水呼びかけや、北陸地震の被災者へ向けた応援メッセージの発信など、選手たちが主体的に社会貢献活動を展開した。
過去には、世界中で新型コロナウイルスが猛威をふるった2020年。日本では全国的に修学旅行などの学校行事が中止となった際、開智未来高校野球部の当時のマネージャーと選手たちが「高校生思い出プロジェクト」として全国の高校生を対象にプレゼン大会を企画。モザイクアートを作成するなど、困難なことがあっても皆が一つになり前を向くきっかけとなる活動を行った。

苦難を乗り越えた先に。地域に愛され応援される野球部へ
毎年1月には「未来野球フェスタ」と題して野球教室を開催。2025年は164人もの小学生が参加し、地域における野球の普及にも力を注いでいる。
こうした活動が、野球部の存在価値を高め、学校や地域からの理解を広げる要因にもなっている。
野球部創設時は進学校としての立場との両立には学校側の理解を得るのが難しく、伊東監督は苦労を重ねた。だが、今では強化指定部に認定され、チームは順調に成長している。
チームの目標は「夏ベスト16」。そしてその先には、「甲子園」という大きな夢がある。目の前の一戦一戦に全力を注ぎながら、未来を切り拓く球児たちと、伊東監督の挑戦は続いていく。
【取材後記】ゼロからの挑戦、“未来”を創る野球部へ
開智未来高校に伺い、まず驚いたのがマネージャーが名刺を出してくれたこと。校庭の入口からグラウンドまでの最中も自己紹介をしてくださる等、会話を絶やさない配慮があった。ベンチに案内された際、伊東監督がノックを打っており、監督が手が空くまでの間、開智未来の野球部の部員構成や簡単な概要を話してくれた。高校2年生でここまでのことが出来るのか。と感銘を受けた。マネージャーは雑用ではなく、選手と監督の間でチームをマネジメントをする立場という選手だけでなくマネージャーも社会に出て必ず通用する人材に育っていくと確信した。
開智未来高校野球部は「勝つこと」だけでなく、「どう成長し社会に貢献できる人間になれるか」について追求している集団であり、伊東悠太監督は、野球を教育の一環と捉え、「守・破・離」の考え方で、選手たちに段階的に自立を促している。
その姿勢は、練習メニューや采配すら選手に任せる柔軟さにも表れていた。加えて、被災地へのメッセージ発信や未来野球フェスタの開催など、社会とつながる取り組みにも積極的であり野球部の枠を超えた活動は、「世界平和を考え行動できる人材の育成」という理念に基づき日々活動している。
2014年、ゼロから始まったチーム。選手たち一人一人が自主性や文武一体を体現し始めた今、甲子園を目指す姿には大きな希望が満ち溢れている。「文武一体」の実践が、球児たちの可能性を大きく広げ、無限大の伸びしろを感じる。今後の開智未来高校野球部の飛躍を一緒に見守っていきたい。
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