2025年春、浦和実業高校がセンバツ初出場でベスト4進出を果たした。堅実な守備と粘り強い野球で強豪ひしめく全国の舞台を駆け上がったチームの中で、ベンチからその姿勢を貫いた男がいる。主将・小野蓮(おの・れん)。167cm、67kgと体格に恵まれているわけではない。それでも小野選手は、「守り」と「心」でチームを支える存在だった。

声をかけられて始まった「浦和実業での挑戦」
松戸市常盤平中学校出身の小野選手は、小学生の頃に松戸KSカージナルスで野球を始め、中学では千葉沼南ヤングに所属。浦和実業を選んだ理由は、「当時の監督に声をかけてもらったから」というシンプルなものだったが、その一言が彼の高校野球人生を大きく動かすことになった。
「浦和実業は県内でも上位の実力校。自分がその中でどれだけやれるか挑戦したかった」
環境に飛び込む勇気と、仲間を引っ張る覚悟。彼の野球は、すでに“結果”よりも“意味”に重きを置く姿勢から始まっていた。

選抜出場を決めた日、浮かんだのは「うれしさ」と「責任」
チームがセンバツ出場を決めたときの気持ちを伺うと、
「率直にうれしかった。甲子園で1勝することを目標にやってきた」
実業ナインは秋季大会で勝ち進み、出場が濃厚とされていたとはいえ、正式決定の知らせには独特の重みがあったはずだ。主将としての責任、選手としての誇り、そして全国の舞台でどれだけ自分たちの野球を表現できるか。そのすべてが、うれしさとともに胸に去来した。
聖光学院との延長戦。すべてが詰まった“9回裏”
甲子園では3勝を挙げ、堂々のベスト4入りを果たした浦和実業。小野選手が最も印象に残った試合は、準々決勝・聖光学院戦だった。
「タイブレークでの延長戦。あの場面で勝てたことが本当にうれしかった」
延長の末に一気に得点を重ね、試合を決定づけた浦和実業ナイン。誰もがプレッシャーを感じる舞台で、チームはこれまで積み重ねてきた練習と団結力を示した。
守備とバントが武器。今後の課題は打率アップ
プレーヤーとしての小野選手は、派手な本塁打等で注目される選手ではない。しかし、彼には確かな武器がある。
「強みは守備範囲の広さとバントの成功率。センターとして守る上で、どれだけカバーできるかが大事だと思っている」
9番を任される場面では、出塁や送りバントが求められることが多い。小野選手はその役割を理解し、誰よりも“流れを作る打席”にこだわってきた。一方で、課題に挙げたのが打率の向上。
「やっぱり自分の出塁がチームに勢いを与えるので、もっと打たないといけない」
確実性を増すため、日々練習に打ち込んでいる。
倒すべき相手は「浦和学院」、そして全国の強豪校
夏に向けた目標を伺うと、迷いなく「浦和学院に勝つこと」と答えた。
「甲子園に行きたい気持ちでは絶対に負けない。まずは浦和学院を倒す。そのうえで、甲子園では横浜や智辯和歌山と戦いたい」
春のセンバツでは滋賀学園や東海大札幌、聖光学院といった全国の強豪に勝利しベスト4という結果を残した。だが小野選手にとって、まだ満足はしていない。秋は浦和学院に勝利したが、夏の埼玉大会で浦和学院を倒し、そして再び甲子園の大舞台へ。彼の視線は常に甲子園を見据えている。
“主将・小野蓮”の本質。仲間を信じ、託すこと
選抜出場が決まってからの浦和実業野球部の雰囲気について伺うと「練習内容は同じでも、気持ちが変わった」と語る。
小野選手の回答からまさに“支える主将”に見えた。
初の全国の舞台を経験し、チームはひと回りもふた回りも成長した。
メンバーの役割はそれぞれ違う。グラウンドにいても、ベンチにいても、スタンドにいても。主将としてチームをまとめ、夏の甲子園に向かって日々練習に打ち込んでいる。
仲間への信頼と感謝「佐々木はやってくれる男だから」
最後に、支えてくれた人たちへのメッセージを尋ねると、こんな言葉が返ってきた。
「支えてくれた人全員に、プレーと結果で恩返しをしたい。特に佐々木はやってくれる男だから期待してほしい(笑)」冗談ながらにそう話す姿はチーム内の仲の良さが見えた。
仲間を信じ、自らも挑み続ける小野選手のスタイルは、決して派手なプレーヤーではない。しかし、浦和実業高校野球部の中で欠かせない“中心選手”であることは間違いない。
この夏、小野 蓮が見据えるのは、浦和学院撃破、そして甲子園再出場。小さな主将の大きな背中が、ふたたび浦和実業ナインを頂点へ導いていく。
【取材後記】主将・小野蓮の覚悟と献身“打倒・浦学”に燃える夏
主将・小野蓮選手の取材を通じて強く感じたのは、体格に恵まれていなくとも、守備やバント、といったプレーの他に主将としてチームに貢献し続ける姿は、まさに縁の下の力持ち。仲間を信じ、支えながら自らも挑み続ける姿勢に、主将としての覚悟と責任をひしひしと感じた。この夏、彼が掲げる“打倒・浦学”の先にどんな物語が待つのか、注目したい。

