2026年1月18日午前9時。冬晴れの空の下、開智未来高校野球場には、すでに色とりどりのユニフォームが並んでいた。年長から小学6年生まで、総勢210人。保護者や指導者の視線の先には、高校生たちが笑顔で声をかけながら受付を進める姿があった。
この日の主役は、子どもたちだ。しかし、舞台をつくったのは42人の開智未来高校の球児たちだった。
鬼ごっこから始まる“野球らしくない”導入
未来野球フェスタは、いきなりボールを投げるところから始まらない。まずは準備体操、そして鬼ごっこ。野球場を全力で走り回る子どもたちと、それを本気で追いかける高校生。開始10分で、会場の空気は一気にほぐれた。
野球教室のイメージといえば、最初から並ばされて、説明されて、こういう形でこうやって投げる、打つなどを教えている姿が浮かぶ。加えてプロ野球選手や有名人に指導されることで緊張が高まってしまいアドバイスなどを聞き逃してしまう恐れがある。
しかし未来野球フェスタでは、子供達の緊張をほぐす為、まず“遊び”から入る。
鬼ごっこは、ウォーミングアップであると同時に、高校生と小学生らが「同じ目線に立つための儀式」でもあった。

AIと野球が交差する瞬間
キャッチボール後、子どもたちは3チームに分かれ各ブースを巡回する。ストラックアウトではテニスボールを使用し、段ボールで作られた的に向かって投球。

またタブレットで投球フォームを撮影し、生成AIはグーグルのジェミニ(Gemini)に撮影した動画を投げかけAIが角度や体の使い方を採点する。
「今の投げ方、めっちゃいいよ!」
「次はもう少し腕を高くしてみよう!」
数値よりも、対話。高校生たちはAIの結果を“答え”として突きつけるのではなく、会話の材料として使っていた。

ロングティーでは、カラーコーンの上にペットボトルを置き、身長に合わせて高さを調整。軟式球をフルスイングする子どもたちの打球がネットに届くたびに、「ナイスバッティング!」と高校生が本気で喜びハイタッチをする。その姿に、子どもたちも思わず胸を張った。

一番人気は“キャップ野球”
この日、最も盛り上がったのが「ペットボトルキャップ野球」だ。キャップをボール代わりにし、線の上に落とした位置でポイントを競う。投げる側の高校生は、年齢やレベルに応じて投げ方を変える。速すぎず、遅すぎず。「ギリギリ届きそう」な球を、何度も演出していた。

須賀ファイターズの工藤くん(6年)は「一番楽しかったのはキャップ野球。将来は工藤公康さんみたいな投手になりたい」と笑顔を見せる。

佐藤さん(6年)は「ロングティーが楽しかった。普段はファーストだけど、中学ではバスケもやりたい」と話し、野球が彼女にとって“可能性を広げる場”になっていることを感じさせた。

「教えられる側」から「教える側」へ
騎西少年野球クラブの斉藤くん(6年)は、「将来は開智未来の選手みたいに、小さい子に野球を教えたい」と語った。
フェスタ終盤、「楽しかった人?」という問いかけに、ほぼ全員の子どもたちが楽しそうに手を挙げた。大成功。誰もがそう感じる光景だった。しかし高校生たちは違った。
「もっと分かりやすく説明できた」
「移動をスムーズにできたはず」
彼らの口から出たのは、反省と改善点だった。楽しませることに満足せず、課題を見つけ次を見据える。その姿勢こそが、このイベントの最大の成果かもしれない。
保護者と指導者が見た“価値”
大利根ダイヤモンドの真中GMは、「高校生が一緒に楽しんでくれるのが一番大きい。勝負だけでなく、野球で遊ぶという原点を思い出させてくれる」と語る。
北川辺ウォーターズの小野田監督も、「他の野球教室は技術中心になりがちだが、ここは“野球って楽しい”を伝えてくれる」と評価した。
須賀ファイターズの河村監督は、「少子化で同じメンバーだけになりがちな中、他チームと交流できるのは貴重」と話す。
NEXT100年というバトン
伊東監督は、この光景を静かに見つめていた。
「プロを呼ぶイベントもいい。でも、高校生が手作りで運営するからこそ、子どもたちにとって身近なお兄ちゃん達に野球の楽しさを教えてもらえる。高校生達も改善点や次はこうしよう、ああしようと自然にこういった言葉が出てくる。そこに一番の意味があります」
開智未来高校野球部では「守・破・離(しゅ・は・り)」と呼ばれる3つの指導の軸がある。
「守」:礼儀、整理整頓、基礎体力、基礎技術。野球に限らず、人としての土台を整える段階
「破」:個々が自分に合った練習メニューを考えたり、チームの戦術を俯瞰して見る視野を養う
「離」:自ら考え、自ら行動する。監督がいなくても戦えるチームを目指す段階に入る。
春から夏にかけてチームが「離」に入っていく段階で、この未来野球フェスタは選手達にとって大きな成長のきっかけになっている。
また、ただお金で物を購入して作る野球教室ではなく、ペットボトルや段ボールを再利用し、準備から運営まで自分たちで行う。SDGsという言葉を使わなくても、行動そのものが“持続可能な野球”を体現している。

野球人口は減っている。だが、この日グラウンドに集まった210人の笑顔は、「明るい未来」を感じさせた。勝敗も記録もないイベントだが、数字では測れない価値があった。
高校生がつくり、子どもたちが受け取り、そしていつか次の世代へ返していく。
「NEXT100年」
このフェスタに“終わり”はない。
この日参加した子供達がこのイベントを通じ、野球の楽しさを再認識し、将来1人でも多く野球に関わってくれていたら嬉しい。
未来の野球人口を増やすため加盟校が未就学児を指導する「キッズファーストアクション」など、NPBや日本高野連も野球離れに歯止めをかける為、様々な活動を検討している。
開智未来高校がモデルケースとなり野球の楽しさを伝え続けてほしい。このような高校生がいる限り未来の野球界は明るい。

