【埼玉高校野球】川口工業・天内海渡監督(32)型にはめない指導で築く、21人の現在地

埼玉県立川口工業高校野球部を率いる天内海渡(あまない かいと)監督は、「一生懸命」という言葉を指導の根幹に据えている。現在の部員数は2年生9名、1年生12名の計21名。決して大所帯とは言えないが、その分、一人ひとりに目が行き届く環境が整っている。

天内監督の指導歴は県立川口高校を経て、現在は川口工業高校を指導し8年目となる。

自身は小学校3年生から埼玉スターズで野球を始め、植竹中、大宮東高校、国際武道大学と歩み、捕手として野球を続けてきた。現役時代に培った「全体を見渡す視点」が、現在の指導にも色濃く反映されている。

チームの軸に据えているのは守備だ。2025年、夏の埼玉大会ではDシードとして臨み、西武文理戦は確かな手応えを感じ、秋季大会では川口青陵、川口市立を破り県大会へ進出。熊谷商業に2―4で惜敗したが、着実に力を示している。指導において天内監督が大切にしているのは選手を「型にはめない」ことだ。
「指の長さも筋力も体格も違う。全員に同じことを求めても意味がない」。指導者側から一方的に答えを与えるのではなく、選手が悩み、困っている部分に対して“レールを敷く”感覚で寄り添う。主体性を尊重する姿勢が、チームの土台となっている。

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フィジカルを土台にした、勝つための準備

日々の練習で特に重視しているのはフィジカルだ。身体の大きさ、強さは高校野球において無視できない要素であり、川口工業では食事指導やウエイトトレーニングにも力を入れている。

「技術以前に、戦える身体を作ることが大切」。公立校、工業高校という環境の中でも、勝負の土俵に立つための準備は怠らない。限られた時間の中で、何を優先すべきか。その答えの一つがフィジカル強化だ。

投手陣は本格派、技巧派を含む5名が揃い、タイプの違いを生かした継投が可能になってきた。キャッチャーを中心に「形になっている」と語るように、試合を作る基盤は整いつつある。加えて、打力のある選手も複数存在し、攻撃の幅は年々広がっている。

天内監督は「伸び伸びと成長してほしい」と繰り返す。抑え込むのではなく、長所を伸ばす。その姿勢が、選手たちの表情やプレーの積極性につながっている。

「最大得点・最小失点」に込めた覚悟

天内監督が掲げるチームのテーマは「最大得点・最小失点」だ。

「スキをついて全力でプレーをする。手を緩めないこと。」例えば、次の塁を狙えた場面で行かなかった。その一つの判断が、最後に勝負を分ける1点になることがある。だからこそ、全力を尽くすことを妥協しない。

その根底にあるのは、応援してくれる人への意識だ。「期待を裏切らないプレーをしてほしい」。勝敗以上に、姿勢を問う言葉でもある。

年間でおよそ100試合を消化し、毎週のように実戦を重ねているのも、経験値を積むためだ。試合の中で必ず課題は見つかる。その都度、選手たちと共有し、共通認識を持って改善していく。気づきを放置しない積み重ねが、チーム力を高めている。

人数不足を乗り越えて

天内監督にとって、最も苦しかった時期は部員数が減少した時だという。

かつては9名で活動していたチームが、7名まで減ったこともある。それでも「春には必ず新入生が入ってくる」と選手たちに伝え、腐らずにやり切ることを求めた。

その代の主将は、令和初の埼玉大会で選手宣誓を堂々と務め上げた。試合には敗れたものの、引退後にかけられた「高校野球を最後まで続けて良かった」という言葉は、今も心に残っているという。

一方で、嬉しかった経験として挙げるのが2025年春季大会ベスト16進出だ。夏のDシードを獲得し、チームとして確かな成果を残した。

「さらに上を目指したい」その思いは今も変わらない。

時代変化の先に、柔軟さの中にある確かな芯

近年、高校野球を取り巻く環境は大きく変化している。低反発バットの導入により、以前ほど長打を恐れる必要はなくなった。

2026春より導入されるDH制について伺った際も「私学に有利な面はあるが、試合の自由度が増す」と冷静に受け止めている。守備が苦手でも打撃が得意な選手、その逆の選手を起用しやすくなるという見方だ。

また、坊主を強制しない、サングラスの使用を認めるなど、時代に合わせた柔軟な対応も行っている。ただし、緩めるべきでない部分は徹底する。

一生懸命に取り組むこと。その積み重ねが、結果につながる。天内監督の指導は、確かな芯を持って川口工業野球部を前進させている。

この冬を超えて春季大会、夏の選手権大会で躍動する川口工業ナインを見守っていきたい。

2026年、埼玉に川口工業旋風が起きる。

【取材後記】27個目のアウトを取り切るまで

天内監督の言葉や指導から、選手を型にはめず、一人ひとりに向き合う指導の積み重ねが選手の主体性を育み、終盤まで集中力を切らさない野球につながっている。

シートノックのやり直し一つにも、高校野球の厳しさと奥深さが凝縮されていた。

例えば取材に伺ったこの日の練習でシートノックの終盤に声が緩んだ場面がありやり直しとなっていたが「最後まで気を抜かない」姿勢を伝えるためだった。

古豪・伝統校の公立高校という環境の中で、結果だけでなく「選手一人一人の長所」を大切にする川口工業野球部。この冬を越え、春、そして夏へ。最後の一球、27個目のアウトを取り切るまで戦い続けるナインの姿を、これからも追い続けていく。

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