“千葉で一番大人なチームへ”検見川高等学校 野球部の挑戦と酒井監督が描くチームの成長曲線【独占】

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公立校の限られた環境で挑む、“考える野球”

検見川高校野球部を率いる酒井陽平監督、現役時代は千葉県立成東高校、法政大学軟式野球部まで野球を続けていた。指導者としてのキャリアは千葉県立千葉若松高校を経て、千葉県立検見川高校に赴任、部長を経て4年前に監督に就任した。

現在のチームは指導者が5名。2年生22名、1年生15名、マネージャー2名。公立校としては比較的多い部員数でチームの体制が整っている。秋季大会では予選を2試合勝ち抜き、県大会に進出。惜しくも翔凜高校に敗れたが、酒井監督は「実践経験の中にこそ成長がある」と冷静に受け止めている。

酒井監督は“選手たちが自主的に考え成長していくプロセス”を大切にしている。公立校ゆえに練習時間や設備に制約があるが、その中で「強豪校相手にどう勝つか」を選手たちが考え成長していくことが酒井監督の指導の核となっている。

シーズン中は毎週土日に実戦を組み、試合から得た課題を練習に落とし込む。「ただ量をこなすのではなく、試合で起きたプレーの“意味”を考える」その積み重ねが“自主的に考えて動く選手”を育てるチームへと育っている。

“素材”ではなく“頭”で勝つ。チーム力で戦う検見川の全員野球

酒井監督は検見川高校の野球部を印象的な例えで語ってくれた。
「寿司に例えると強豪私立校の選手はトロやウニ、いくら。素材がいい選手が揃っている。でもうちの選手に『寿司ネタに例えるとなんだと思う?』と聞くと選手たちは『…イワシですかね』って答えるんですよ。地味だなーって思って(笑)」

この言葉には、選手たちに伝えたい“格上との戦い方”のメッセージが込められていた。
それは“素材”に頼らず、“工夫と頭脳”で勝負すること。
決して派手さはないが、観察、判断、状況判断といった「大人な試合運び」を徹底して磨いていく。

選手たちに「この練習をやった方が良いと言ったときに、納得してやっているのか」

試合の際には「こちらが出したサインに納得して実行しているのか」

「選手たちの表情を見るようにしている。表情を見る事で昨日夜更かししたとかそういうのもわかる」と話す。

日々選手一人ひとりの表情を見ながら技術面のみならずメンタル面もサポートしている。

また試合ではテンポ、守備位置、投球の意図、相手投手のクセの見極めなど、選手自身が考え、判断するシーンが多いという。相手を観察し、試合の流れを掴む“野球IQ”に重きを置いている。
「気合いや根性も大事だが、それだけでは素材の良い強豪には勝てない。大人な試合運びができると格上にも勝機がある」
” 相手が強豪だから勝てない”ではなく、ミスを恐れず選手一人ひとりが考え、チームとして戦えば、「一人ひとりは小さな力でも、全員野球で力を合わせることにより大きな力になる」千葉県で一番大人なチーム”を目指し日々練習に励んでいる。

勉強と野球の両立と地域の支え

創立51年を迎える検見川高校は、学校や地域、OBからの応援も温かいと酒井監督は語る。

例えば、夏の大会の日程が平日でも生徒を大会に派遣し学校一丸となり応援を行ってくれる。地域住民からは応援メッセージが届いたりOB会の支援など多方面の応援を受けている。これらは検見川高校野球部が期待され愛されている証拠だ。


また、平日の練習は19時〜19時半には終了する。練習後にそのまま塾へ向かう部員も居るという。学業と野球を切り離すのではなく、選手自身が考えて行動する“自立”を重視している。

特に資格取得を重視し、英検を積極的に勧めている。
近年の野球部員の進路実績では明治大学、青山学院大学、法政大学など難関大学への進学者も出ており、野球だけでなく選手の進路まで考える指導が根付いている。

年間150試合の「経験」と「勝ち方」

酒井監督が最もこだわるのが、年間約150試合を戦う実戦経験の豊富さだ。
新入生が入部し3学年揃うと50名を越える大所帯となる。Aチーム、B1、B2の3チーム構成でそれぞれ練習試合を行い、全員が出場機会を得る。“経験は最大の財産”というように入学当初から全選手が毎週試合に出場し経験を積んでいく。

試合(実践)の中でしか学べないことは山ほどある。実践経験する機会を最大限選手全員に与えチームの成長を促している。

酒井監督の指導は一人一人に「“失敗と成功の蓄積”を与え、自身のプレーを俯瞰して考えさせ、練習の目的を理解・納得した上で課題解決していく」ことが中心にある。

試合後には選手たちが主体となり、良かった点や次への課題を理解し練習を積んでいく。
この積み重ねによって、検見川高校の選手は「なぜ負けたのか」「次はどうすれば勝てるか」を自分たちで考えられるようになっていく。

また酒井監督が検見川高校の監督になってから忘れられない試合があるという。

この年は3年生10名と最高学年の選手が少ない中で挑んだ夏の千葉大会。強豪・拓大紅陵高校との試合だった。大量失点やコールド負けを覚悟したが、試合は2−5の善戦。
「技術では到底及ばない相手に、頭と工夫とチーム力で食らいついた。選手全員が出場しそれぞれの個性を活かし成長を見せてくれた。あの試合は強豪校相手でもチーム力で食らいついていけることを選手たちが証明してくれた」と酒井監督は語る。

この経験は酒井監督にとって大きな財産であり“全員野球”の価値を再確認する機会となった。現在のチームもその伝統を受け継ぎ、守備からリズムを作り、足を使った攻撃で試合を動かすスタイルを徹底している。春以降も“一戦必勝”を掲げ、自分たちの野球を見失わない戦い方を目指している。

【取材後記】検見川高校が示す高校野球の姿

酒井陽平監督へ話を伺い、超高校級と呼ばれる選手がいなくても、経験とその経験を活かす考える力があれば強豪校と互角の戦いができるのだと実感させられた。

公立校という限られた場所、時間の中でも工夫し、頭を使い、日々の練習を積み重ねることで、選手たちは確実に成長していく。

選手全員に入部当初から試合経験を与え、勝ち負けの裏側にある「成長のプロセス」を大切にする酒井監督の指導を受けた選手たちは高校野球だけにとどまらず、将来社会に出てから検見川高校野球部での経験は大きな武器になるはずだ。

“千葉で一番大人なチーム”を目指す彼らが、これから先、どのような試合運びを見せてくれるのか。
その進化を楽しみに今後も見守っていきたい。

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