グラウンドに響く乾いた打球音。その直後、白球を追う影が一直線に伸びる。次の瞬間、ベースカバーへ走り込む足音と、仲間を鼓舞する声が重なった。
上尾高校の中心に立つ右腕、辻岡瑛人。175センチ、68キロ。しなやかなフォームから投げ込まれるボールは制球良く丁寧に低めに投げ込まれ、打者のタイミングを外し、確実にアウトを積み重ねていく。
バッターとしては3番として打席に立ち、投打で試合の流れを握る存在だ。
今回は投打の柱となっている辻岡選手に話を伺った。
「シートノックに惹かれて」上尾高校に進んだ理由
辻岡選手が上尾高校を選んだきっかけは、ひとつの出会いだった。
中学時代、所属していた越谷ボーイズの監督に勧められ、上尾高校野球部の体験会に参加した。そのとき目にしたのが、シートノックだった。
打球に対する反応の速さ。誰一人として手を抜かない動き。ボール一つに対して全員が食らいつく姿勢。
ただ上手いだけではなく、野球に向き合う姿勢に心惹かれた。
現在の上尾高校野球部は個性的な選手の集まりだという。
目標に向かって全員が同じ方向を向いている。その一体感こそが、このチームの強さであり、辻岡選手が惹かれた理由でもあった。
試合を壊さない投手へ—現在の役割とプレースタイル—
辻岡選手に自身の長所を問うと、1番は試合を組み立てる能力だという。変化球を織り交ぜ、丁寧にコースを突き、打者の狙いを外していく。打たせて取る。格上相手にも試合を作れる投手。守備からリズムを作り攻撃に繋げていくスタイルの上尾高校の野球には必要不可欠な選手だ。
だが、本人はその現状に満足していない。
反対に辻岡選手の課題を問うと「声でチームを引っ張ることやボールに食らいつく執念がまだまだ足りていない」と話す。
練習から声を出しチームを盛り上げられる選手になりたい。また、ノックでは一歩目の反応にこだわり、どんな打球にも食らいつく意識を持っているという。
その地道な積み重ねが、接戦の試合で流れを引き寄せる。そしてこの意識こそが、上尾高校の野球を支えている。

「一球の軽さ」が変えたもの——課題と成長の軌跡
辻岡選手には忘れられない試合がある。秋季大会、浦和学院との一戦だ。
試合は緊迫した投手戦で7回表に上尾高校が勝ち越しに成功した。全国屈指の強豪相手に終盤に主導権を握る展開。だが、最後は逆転負けを喫した。
その原因は、たった一球だったという。
8回裏1点リードの場面で浦和学院3番打者にフルカウントからライト前に運ばれ、4番打者が送り1死2塁の場面。続く5番打者を0B−2Sと2球で追い込むも3球目をライトに運ばれ同点、続く6番打者に1B−1Sからの3球目にセンター前に運ばれ逆転を許した。
ほんのわずかな甘さや一瞬の油断。その甘くなった一球を、浦和学院打線は見逃さなかった。
勝負は流れではなく、積み重ねで決まる。終盤までリードしていても、たった一球で試合はひっくり返る。
自分たちはまだ足りない。勝ち切るための力が、まだ足りていないと実感したという。
21世紀枠の関東推薦枠に選ばれたことについても選んでいただいたことはとても嬉しいが、評価される一方で、実力との差を強く感じたという。
野球への向き合い方。日常、学校生活の過ごし方。一つひとつの意識が明らかに変わっていった。
夏に勝ち切るために——エースとしての覚悟
春を越え、迎える夏。
ただ結果だけを求めるのではなく、常に謙虚であること、自分に何が足りないのかを見つめ続けること。その姿勢が、チームを少しずつ成長させている。
自分たちのチームは先輩たちに比べると力がない。その代わりに団結力は負けていない。
常に謙虚に野球に打ち込み、応援してくれる人たちの為にも、どんな場面でも、どんな状況でも、決して諦めない。一球に対する執念を忘れず、一戦一戦を全力で戦い抜く。
まとめ(取材後記)
辻岡選手の印象は野球IQが高く俯瞰してチームや自分自身を分析できる選手だ。
投手としては球速だけではなく、変化球が得意で制球力で試合を作る能力があるという点。また自分の不得意な分野も理解し、それでもチームのために前に進もうとしている。
秋季大会の敗戦で知った一球の重みや21世紀枠の関東推薦枠に選ばれたことで感じた注目度と実力との差。そのすべてを、逃げずに受け止めてきた。
上尾高校が目指すのは、強豪私学を倒し、夏の甲子園出場。その中心に立つのが、辻岡選手である。
これまで積み重ねてきたすべてを込めて炎天下の夏に投げ抜いた先に広がる景色は、きっと彼自身が想像している以上に、大きなものになるはずだ。

