主体的なチーム運営、文武一体の精神、そして自主性を育む環境。開智未来高校硬式野球部には、選手たち自身の意思と工夫で築かれる空気がある。その中で3年生としてチームを支えるのが、新妻慎太郎(にいづま・しんたろう)選手。宮代町立百間中出身。小学生の頃から野球に親しんできた新妻選手は、最後の夏に向けて、どんな想いを抱いているのか。穏やかな語り口から語られる芯の強さに迫った。

「自分たちで考えるチーム」に惹かれて
小学校4年生の時に宮代スカイフレンズで野球を始め、中学でも部活動で野球を続けた。高校進学にあたって、新妻選手は「自分たちで主体的に考え、創っていくチーム」という開智未来のスタイルに魅力を感じた。
「決められたメニューをただこなすだけではなくて、自分たちで必要な練習を考えて動く。そこに惹かれた」
その姿勢は入学後すぐに体感することになる。選手たちが練習内容を話し合い、時には意見をぶつけながらも前向きに改善していく姿勢が、チームの根幹にあった。
文武一体という言葉も、彼の生活に深く根づいている。開智未来野球部は朝練を行わず、その時間を自習に充てるのが基本。新妻選手も毎朝自習室に足を運んでいる。帰宅後も15〜30分は必ず勉強の時間を確保し、学びと野球を両立させる日々を送っている。
「量より質。限られた時間の中でも集中して取り組むように意識している」

チームを“まとめる”のではなく、“整える”
現在のチームは3年生が新妻選手を含めてわずか3名。1・2年生が多く、全体の90%以上を下級生で占める構成となっている。しかし、そこに厳しい上下関係は存在しない。
「下級生がのびのびとプレーできるのが開智未来の良さ。下級生が上級生に気を遣ったり、意見を言えなかったりする空気がない」
そんな雰囲気を保つために、新妻選手たち3年生は休み時間を使って頻繁にミーティングを重ねている。テーマは「どうすればチームがひとつになれるか」。まとめ役として上から引っ張るのではなく、下級生たちと目線を揃えながら、自然なまとまりを目指すスタイルだ。
自身の強みについて尋ねると、「後輩に怒鳴ったり、自身の意見を押し付けたりしないこと」
「野球はチームスポーツで個人の意見もすごく大事だと思っています。一人ひとりがしっかり考え、それをチームに出していけると、全体が自然といい方向にまとまると思っている」「最上級生としてチームを引っ張る。しかし対等な関係の中で話をした方が、自然に信頼もついてくると思っている」と語った。
一方で自身として個人的な課題も明確に見据えている。試合中にピンチを迎えた場面で、どうしても慌ててしまう。冷静さを保ち、自分のペースを貫くことが今後のテーマになっている。

鷲宮戦の記憶と、叡明へのリベンジ
これまでの高校野球生活で最も印象に残っている試合は、昨年秋の鷲宮高校戦だった。新妻選手はこの試合に先発し、終盤にチームが連打で逆転。
「あの試合はチームがひとつになれた。自分が失点してしまったが仲間が逆転してくれた。」
この夏、対戦を熱望するのが叡明高校。昨秋の公式戦では0-3で敗れており、悔しさが残る一戦となった。
「叡明高校は春に準優勝して、関東大会にも出ている。でも、自分たちも練習を重ねてきた。夏こそ勝ちたい。」
キャッチボールと素振り、そして未来へ
オフの日も完全な“休み”にはならない。父とキャッチボールをしたり、自宅で素振りをしたりと、体を動かす習慣を保っている。勉強の合間に体を動かすことで、気分転換にもなり、集中力の切り替えにもつながっている。
試合前のアップにもこだわりがある。軽いランニングとダッシュで体を温め、ストレッチを入念に行い、上半身と下半身の連動を意識した動きを取り入れている。試合前の投球練習も、日程から逆算して計画的にブルペンに入る。
普段の投球練習は週1回。試合が近づいてきたら感覚を合わせるように調整をする。
今後は大学進学を目指しているが、この夏を最後に競技としての野球には一区切りをつけるつもりだ。
集大成の夏、仲間とともに過ごした時間を背負いながら「自分たちで創ってきた野球」で目標のベスト16へ。ピッチャーとして、そしてチームの3年生として、新妻選手は叡明高校へのリベンジを胸に秘めながら最後の大会に挑む。
取材後記:チームスポーツとは何か…課題克服した姿を
わずか3人の3年生で構成されたチームを支える姿には、一人一人の思いがあった。”怒鳴らず” ”押し付けず” 下級生と対等な立場で対話を重んじる姿勢は、彼の人柄を表している。「野球はチームスポーツ。一人ひとりの意見がチーム全体に良い影響を与える」と語る彼の表情と言葉の一つ一つに説得力があった。最後の夏、新妻選手がマウンドに立つとき、そこには自身の課題を克服した冷静なピッチングで勝負を楽しむ姿があるはずだ。
