この夏、さいたま市立大宮北高校は全国高等学校野球選手権埼玉大会で見事ベスト16に進出した。5回戦では聖望学園を相手に壮絶な打ち合いを演じ、あと一歩で準々決勝に手が届く位置まで迫った。チームを率いる佐々木監督は、夏をこう振り返る。
「あと一つ勝てば準々決勝で叡明高校との対戦だった。春に敗れていた相手でもあり、3年生たちは組み合わせが決まった時点から“どんな展開で勝ち進むのか” “どのチームとどう戦うのか”を自分たちで考え、準備していた。聖望戦では序盤から集中打でリードを奪い、5回で試合を決めたかったが、押しきれなかった。」と語る。
序盤4回表までで12−3と大きくリードしながらも、4回裏に聖望学園の猛攻で12−8となった。
佐々木監督は「焦る場面ではなかったが、序盤の失策が影響して継投の判断に迷いが出てしまった」と自身の采配を振り返った。終盤に惜しくも逆転を許しベスト16という結果に終わったがあの激闘は多くの高校野球ファンに感動を与えた。
組み合わせを見た瞬間から戦い方を構築し、最終的に自らの力で戦い抜く。その姿勢こそ、指導者として誇りに思えるチームだった。3年生たちの“準備の姿勢”が印象に残った夏だった。

■新チームは「経験値の継承」からスタート
秋季大会を終え、新チームは新たな挑戦を始めている。前チームと比べて、構成や戦い方には明確な変化があるという。
「前のチームは走力のある左打者が多く、機動力を活かした攻撃ができた。今のチームは右打者が多く、状況に応じてバントや進塁打など堅実な野球を意識している。」と語る
各選手に打たせて勝負する野球から、ひとつひとつ積み上げる野球に変わっている。
さらに、経験値の差も大きい。前チームの主力は下級生の頃から試合に出続けていたが、現在は延原選手を除けば実戦経験が少ない。試合中に必要な“我慢の時間”や“流れを読む感覚”を身につける段階だという。
前のチームは経験値があるため「ここ我慢だぞー」などという声を掛け合うなど、選手たちが自然と理解していたが、今のチームは試合が終わったあとに振り返りながら学んでいる。経験を重ねることでしか身につかない部分を、地道に積み上げていく段階だ。
結果だけを追うのではなく、過程を大切にする。1つのプレーや試合から何を学び、どう次に生かすか。大宮北の“選手たちが考える野球”の姿勢は今も変わらない。
■冬を越え、春の快進撃へ「課題の明確化」と「投手陣の底上げ」
秋の大会が終わり、チームはすでに冬へと向かって動き出している。佐々木監督は、11月中旬から下旬にかけてベスト16以上の強豪校と練習試合を組んでいると話す。
「大宮与野杯など2025年の公式戦はすべて終わった。今はあえて強いチームと練習試合をして、現時点で足りないものを明確にする段階。技術面なのか、体力・筋力面なのか。冬のトレーニングに入る前に“何を目的に鍛えるのか” “何が課題なのか”を選手たち自身が理解して取り組んでいく。」
また投手育成についての質問をすると、技術以前に“狙い通りにボールを投げられるか”という基本の部分にあるという。
条件は二つ。「まずストライクが取れること。」「そしてボール球を意図的に投げられること。」
「新人戦の頃はストライクを取れていたが、秋季大会ではそれができなかった。ストライクを投げること自体はできても、“どう打たせるか” “どこに外すか” といった意図を持った投球まではまだ至っていない。」
秋の大会では四死球や守備の乱れが失点につながり、勝機を逃した試合もあった。
弱点を把握し、改善の方向性を共有する。目的意識を持った練習こそが、春の快進撃に直結するはずだ。

■チームを導く主将と中心選手たち
来季のチームをけん引するのが蓮沼主将と延原選手だ。いずれも1学年上の代から試合やベンチを経験しており、勝ち上がるイメージを持っている。
「蓮沼や延原は“GOALのイメージ”を持っている選手。上の代で戦った経験があるから、どうやってチームをまとめ、どこを目指すのかを理解している。そのイメージを他の選手に共有して、引っ張っていってほしい。」
「春ベスト8、打倒強豪私学」。代が変わってもその目標は変わらない。蓮沼主将を中心に、堅実な野球を軸にして一戦一戦を積み上げていく。
【取材後記】
大宮北野球部の長所である、「課題を自分たちで言語化し、解決に向けて行動する」=「自分たちで考える野球」は、単なる戦術的な思考だけでなく、選手一人ひとりが主体的に課題を捉え、改善へとつなげる姿勢を意味している。
前チームのような派手さはない。しかし、練習試合の一球や、敗戦からの反省を次につなげる姿勢こそ、このチームの真の強さでもあり、伸びしろを感じる。
失敗しても選手たちで意見を言い合うことにより“次に生かす力”が積み重なる。その繰り返しが着実な成長を生みチームが出来上がっていく。
「春ベスト8、打倒強豪私学」という目標も、選手たち自ら考え、挑戦を恐れずに前へ進むチームの姿勢が、その言葉に込められている。夏・秋の経験を糧に、冬を越え、来春のグラウンドにどんな形で表れるのか。冬を越えた彼らの姿に、期待が高まる。

