
埼玉大会を制し、叡明高等学校は創部以来初となる甲子園出場を果たした。グラウンドに立ったのは3年生たちが中心だったが、その舞台をベンチから見守り、次の世代への決意を固めていた2年生投手の鈴木隆夢。身長184センチ、体重94キロ。大柄な体躯から放たれる質の良いストレートを武器に、チームの未来を背負う存在として期待される右腕である彼に迫った。
初めて味わった甲子園の景色と先輩の背中
鈴木選手は2年生投手で唯一甲子園の土を踏んだが、登板機会はなかった。ベンチから試合を見つめる立場であったが、それでも全国の舞台は強烈な印象を残した。
「ベンチだったけど、あの大観衆の中で野球をするのは初めてだった。人の多さにびっくりした。こんなに多くの人が一つの試合を見てくれるんだと実感した」と語る。
その光景に圧倒されつつも、胸の奥では「自分もこの舞台で投げたい。」その思いは強く刻まれた。
津田学園との試合で印象に残ったシーンを尋ねると、鈴木選手は同じ投手である1個上の田口選手のプレーを挙げた。「9回表、ピッチャー強襲を田口さんが捕球した場面。自分たちから見ても打球が見えないくらい速かった。あのプレーを見て、さすが田口さんだと感じた」。先輩投手の守備や姿勢に学ぶところは多く、全国の舞台で戦うための基準を身近に感じられた瞬間だった。
ベンチから見守った試合を通じて、鈴木はチームの強さと課題を冷静に分析した。
「投手の質は全国でも負けていないと思った。特に3年生の増渕さんと田口さんの2枚看板は、レベルが高かったし自身もお手本にしている。攻撃の面でも全国屈指の好投手からヒットを打てていて、自分たちの野球が通用する部分はあったと感じた」と語る。
一方で、まだ個々の力を出し切るには課題も残っていた。「自分自身も全国でも通用する投手になりたい。そのために先輩たちを見習って、日々の練習で足りない部分を埋めていきたい」と鈴木選手は言う。
チームを甲子園に導いた先輩たちの背中は、鈴木選手にとって最大の教科書であり目標である。

新チームで背負う役割と交わした約束
甲子園での激闘を最後に3年生が引退し、新チームが始動した。
鈴木選手は唯一の「甲子園経験投手」として、次世代のエースとなることを求められている。
「投手として甲子園でメンバーに入った経験があるのは自分だけ。今は135キロくらいだが、あと5キロから10キロは速くしたい。制球力も課題だが、ストレートの質を高め、カウントを取れる変化球や勝負球となるボールを磨いていきたい」
彼が目指すのは、叡明の野球の原点である「守備から攻撃につなげるリズム」を作れる投手だ。「リズム良く投げ、攻撃に流れを持っていける投手になりたい」と語る姿には、投手陣の柱としてチームを引っ張っていく自覚を感じた。
新チームについて問うと「埼玉県内では始動が一番遅いが、チームの雰囲気は明るい。全員が甲子園出場という同じ方向を見て日々練習に励んでいる」と話す。先輩たちが残した財産を受け継ぎ、さらに強いチームを作り上げるための土台は整いつつある。
また、鈴木選手にとって心強い存在が、同級生で捕手の青木選手だ。「強気なリードでとても投げやすい。テンポが悪くなった時にタイムを取って声を掛けてくれるし、周りがよく見えている」。全国の舞台を経験した青木選手の存在は、叡明の投手陣のレベルを上げていく大きな支えとなる。甲子園を経験した先輩たちからは「必ず甲子園に戻ってこい」と言葉を託された。その一言は、鈴木選手のみならず叡明野球部の中で大きな目標となっている。「甲子園初出場校の次世代のエース」として、再び全国の舞台に立ち、先輩たちが越えられなかった壁を超えることを目標とし日々練習に励んでいる。

【まとめ】「楽しく、強く」最期の夏へ
最後に、これからのチーム作りについて鈴木選手はこう語った。「皆が良い雰囲気でやるべきことをやり、夏に良い状態に持っていけるよう日々練習していく」。単に勝利を追い求めるのではなく、日々の努力の積み重ねを大切にする姿勢は、先輩たちが示した姿と重なる。
甲子園のベンチから見た大観衆や先輩の背中、仲間との信頼、勝つことに対する執念。
全ての経験を力に変え、新チームの中心投手として彼の右腕が叡明を再び甲子園に導く日は、そう遠くない。