2025年春、初めて取材したときの延原選手は、レギュラー選手として唯一の下級生で出場していた。県内屈指の好投手も苦にしない器用なバッティングと落ち着いた立ち居振る舞いが印象に残っていた。あれから半年、チームの中心として迎えた秋。責任と自覚を胸に、新チームを牽引する存在へと成長を遂げていた。夏の大舞台を経験した彼に再び迫った。
責任とプレッシャーを背負って立つ、新チームの要
さいたま市立大宮北高校の延原孝介選手(2年)は、新チームで唯一、夏の大会を経験した選手だ。新チームとなり、チームの中心選手としてのプレッシャーが重くのしかかった。
「上の学年から試合に出ていたのは自分だけだったので、責任感はすごくありました。でも、その分プレッシャーもあって、思うようなパフォーマンスが出せなかったです」
重圧を言葉にする延原選手は、飾らないままの心境を見せる。自らの技術だけでなく、精神的にもチームを引っ張る立場になった今、さらに高みを目指すため、自身の課題に向き合っている。
投手としても“中心”に——仲間とともに高めるチーム力
延原選手はショート兼ピッチャー。
バッティングに関しては 、指導者の方々からアドバイスをもらい、逆方向へのバッティングを意識するようにしているという。
しっかりとミートして強い打球を飛ばすことを心がけており、彼のバッティングセンスは県内でもトップクラス。豪快な柵越えホームランを狙うタイプではなく、外野の間を鋭い打球で抜いていく。
また、投手としても前チームからマウンドに立ってきた。新チームのマウンドにも立ち、二刀流として存在感を示している。
「佐々木監督をはじめ、指導者の方々から毎日アドバイスをもらっています。9月から10月にかけては、教育実習で来ていた野球部OBの先輩にも、フォームや細かな点を教えてもらいました」
現在、チームの投手陣は8名。うち2年生が5人、1年生が3人。その中心に立ち、全体を引き上げる意識を強く持つ。
「自分が中心になって、投手力全体を底上げしたい。みんなでアドバイスや意見を交換し、練習の中で刺激しチーム力を高めていきたい」
チームの中心選手としての自覚はもちろん、仲間を思いやる視点もある。そうした姿勢が、大宮北野球部の良い雰囲気を作り出している。

聖望学園戦の記憶。歓声が届かない中で感じた「圧」
夏の大会で最も印象に残っている試合を問うと、延原選手は即答してくれた。
「5回戦の聖望学園戦ですね。バッティングでは3安打と自分の中では良い結果を残せましたが最後の打者になってしまった。投手としては、8回に登板しましたが悔いが残るピッチングでした」
結果以上に、印象に残っているのは“雰囲気”だったという。
「試合開始が遅くて、吹奏楽の応援がなかった。スタンドからの声だけで、相手チームの応援の圧を感じました。」
延原選手にとって、この一戦の経験は大きな糧となっている。
新チームの目標は「春ベスト8」。そして打倒・強豪私学。
先輩たちと同じ目標でまずは先輩たちを越えられるように。
新チームを引っ張っていくため、声でもプレーでも存在感を出し続けている。
「公立校No.1ショート」への決意
延原選手はその中心として、まず自分が成長しなければならないと強く感じている。
「先輩たちは強豪校と並んでも遜色のない身体の大きさをしていたが、新チームは身体のサイズが2回りくらい小さいので、身体を作っていきつつ、基礎練を徹底していきたい。守備力や連携プレーを中心に、チーム全体の底上げを図っていきたいです」
その中で掲げる個人目標が「埼玉公立校No.1ショート」
「公立でもやれるということを証明したい。」という熱意を感じた。
決して派手なプレーではなくても、守備範囲の広さや送球の正確さ。
投手としては150kmの速球がなくとも、制球力や緩急で打ちとる。
打撃では120m級の大きなホームランが打てなくても、しぶとく、確実性の高い打撃で勝負していく。
彼にはポテンシャルはある。この冬にこれらの課題一つ一つを丁寧に練習をしていけば必ず春以降に良い結果がついてくるはずだ。

新チームの文化をつくる——“自由”と“組織”の融合
大宮北高校野球部といえば、「自主性のあるチーム」として知られている。自由を重んじる文化の中で、過去の先輩方も自ら考え、選手間で考え行動するスタイルを築いてきた。
延原選手はその伝統を大切にしながらも、次の段階を見据えている。
「大宮北の良い伝統である“自由”や“自主性”は残しつつ、自分たちの代では“組織的なルール”を意識しています」
それは、見ていて気持ちの良いチームを作るためでもある。
「例えばイニング間の攻守交代を30秒で行うとか、スピーディーな野球を意識していきたい。プレー以外の部分でも、見ている人に伝わるようなチームにしたいです」
リーダーとしての姿勢が問われたのは、新チーム結成直後だった。
「自分がミスをしても、周りが言えない雰囲気がありました。1年生の頃から試合に出ていたのは自分だけだったので、遠慮があったと思います。でも、それでは強くなれないと思って、同じ立場で意見を言い合える環境を作りました」
その言葉には、ただ一人の選手ではなく先を見据えた、チームが良くなるため、強くなるためには何が必要か。組織としての大宮北野球部をさらに新たな形に変えていき、その先にはベスト4、準優勝、優勝を見据えているように感じた。
【取材後記】自分を律し、仲間を導く
延原選手を取材したのは2回目である。以前から言葉に無駄がなく、常に冷静の印象がある。
また、彼の芯の強さと誠実さが周囲を自然と動かしている。
彼が「責任感」という言葉を口にしたとき、自身がチームの中心として引っ張っていて良いチーム作りをしていると感じた。ミスを恐れず楽しみながら積極的にプレーする、仲間と正面から向き合い、プレーで信頼を掴んでいく。
寒い冬を越え、春の大会が始まる頃、延原選手率いる大宮北がどんなチームに変わっているか。その姿はきっと、「強豪私立を倒す公立校」と胸を張れるチームになっているはずだ。

