埼玉県の公立進学校・市立川越高校は、文武両道を掲げながら近年、野球でも結果を出し続けている。その中で今、存在感を放ち始めているのが2年生の森翔大選手だ。ポジションはショートやサード、打順は3番。今春の県大会でスタメンの座を掴み、チームのベスト4入りに貢献した。順調に見える歩みの裏には、ひたむきな努力と確かな成長の物語があった。

市立川越を選んだ理由は「文武両道」と「実績」
所沢市立北野中学校出身の森選手は、小手指ファイターズで野球を始め、東村山中央ボーイズで硬式野球を経験した。進路に市立川越を選んだ理由は明確だった。「練習環境が整っていて、検定にも力を入れている。そして中学3年の夏に、市立川越が県大会ベスト4に入ったのを見て、自分もこのチームで戦いたいと思った」
現在、学業と野球の両立を意識しながら自らを磨き続けている。

食トレと筋トレで身体づくり、9kgの増量に成功
入学当初、森選手は体格の面で不安を感じていた。「同級生と比べて身体が小さく、高校野球で通用するのか不安だった」。しかし、そこで立ち止まらず、自らの課題に正面から向き合った。
食トレでは白米の量を意識し、タンパク質もしっかり摂取。ウエイトトレーニングではベンチプレス、スクワット、デッドリフトを中心にメニューを組み、着実に体を鍛えた。その結果、1年間で9kgの増量に成功。体重は72kgに達し、スイングや送球に力強さが見えてきた。
「身体ができてきたので、これからは技術面の追求に力を入れたい」と語る言葉には、自信と成長がにじむ。

市立川越野球部の強さの秘訣
市立川越高校野球部は、学業と部活動を両立させる文武両道を実践し、さらに学年を超えた風通しの良い人間関係がチームの強さの秘訣だ。「先輩後輩の壁がなく、みんなで楽しく野球ができている。試合中もお互いに声をかけ合える」という環境はチームに好影響を与えている。
森選手が春季大会でスタメンを勝ち取ったのは、日々の努力の積み重ねによるもので、特に早大本庄戦での活躍は、彼の勝負強さとチームへの貢献度の高さを証明した。3番打者として安打を重ね、守備でも落ち着いたプレーを見せた。本人も「特に印象に残っているのは早大本庄戦。接戦をものにできて、個人としても5打数4安打の活躍ができた」と話す。
勝負どころでの集中力と、試合を通じて貢献できる力。スタメンの座は偶然ではなく、積み重ねの結果だった。
また同校野球部では、テスト1週間前にチーム全体で勉強会を実施するなど、部活動と学業を両立させるための工夫が凝らされている。選手たちは、試合や遠征が続いても学業をおろそかにしない。学年間の壁がなく、お互いに声をかけ合い、楽しく野球ができる環境が、選手たちの成長を後押しし、好成績へと繋がっていると言えるだろう。
強みは打撃、課題は守備
森選手の持ち味は「広角に打てること」。状況に応じたバッティングができ、ヒットを量産できる点は3番打者として理想的な要素だ。
一方で課題として挙げるのは守備、とりわけ「逆シングルでの深い打球処理」。ショートというポジション上、カバー範囲も広く、難しいプレーが多い。だが本人はその課題としっかり向き合っており、「一球一球を大事にしながら、確実なプレーを増やしていきたい」と意欲を見せる。
試合中は緊張しやすいという森選手だが、「ベンチにいる同級生と話して気持ちを切り替えている」と、自己調整の方法も身につけつつある。
夏にかける思い、狙うは「叡明へのリベンジ」
市立川越はこの夏、埼玉大会をBシードで迎える。森選手が対戦を熱望する相手は、秋・春と2度敗れている叡明高校だ。「3度目の正直で、夏は勝って甲子園に行きたい」とリベンジに燃える。
その前に立ちはだかるのが春日部共栄。森選手は「共栄に勝つため、打撃練習ではマシンを140キロに設定して対応力を高めている。「狙い球を絞って自分のスイングが出来れば、チームの勝利に貢献できる」と冷静に語る。
グラブは「同級生の嶋田選手から借りて使いやすさを感じた」というIPセレクトを愛用している。歯の削れにくいスパイクにもこだわり、最大限のパフォーマンスを出すために細部まで準備を怠らない。

家族と支えてくれた人たちへの感謝
最後に、これまで支えてくれた人たちへ、森選手は真っ直ぐな言葉で感謝を伝えた。
「家族や指導者、チームメート、これまで関わってきたすべての人たちに感謝しています。夏の大会では3番ショートとして、攻撃でも守備でも結果を出して、甲子園に連れていけるように全力で戦いたい」
【取材後記】覚悟と成長の軌跡
取材を通して感じたのは、森翔大選手の「芯の強さ」。穏やかな口調ながら、自らの課題や目標を明確に語る姿には、高校2年生とは思えない落ち着きと覚悟があった。特に印象的だったのは、体づくりへのこだわりと、甲子園出場への強い意志。過去の敗戦を糧に、どうすれば勝てるかを自分なりに分析し、準備を進めている姿は「結果が出ない時、苦しい場面でどう立ち振る舞うか」という教えを既に体現している。
市立川越野球部の中で磨かれていく森選手の今後の成長がますます楽しみでならない。
