「気持ちで流れを持ってくる」叡明の空気を変える副主将・山中陽哉という存在【埼玉】【独占】

今回の取材の中で内田コーチと吉田部長へこんな質問を投げかけた。

「今のチームで最も成長した選手は誰ですか?」

指導者たちは迷うことなく山中選手の名前を挙げた。

理由を聞くと、技術の話より先に出てきたのはこんな言葉だった。

「今のチームは山中に救われている部分がある」

昨夏、叡明は埼玉県を制し、甲子園初出場を果たした。今年のチームは秋、春と苦しい結果が続いているが、そんな状況でもグラウンドの空気を明るく保とうとしている選手の一人が山中選手だった。

取材の中で「根性と元気だけは負けません」と笑顔で答える彼の素顔に迫った。

目次

野球を続ける理由になった指導者との出会い

山中選手が野球を始めたのは小学校入学前から川口レッドホークスで野球を始め、川口市立榛松中学校へ進学。中3では川口市選抜チームの川口クラブキューポラーズでプレーした。

高校進学を考えた時、山中選手の心を動かしたものがあった。

「SNSで叡明高校野球部が取り上げられていて、県内でもどんどん力を付けているのが分かった。それに加え中村監督の指導方針に共感できた」という理由から叡明進学を決意した。

入学当初は170センチ85キロだったが、現在は173センチ78キロまで体を絞った。

トータルの量は変えずに夜の食事量を減らし、朝にしっかり食べる生活へ変えたことで動ける体を手に入れた。

手に入れたものは体格の変化だけではなく「周りを見る力」や「自分が先頭に立つこと、チームの中でどういう役割を果たすべきかも考えられるようになった」

プレーを始めチームを統率しまとめ上げる立場の今の山中選手につながっている。

「人をつなぐ力」副主将・山中陽哉が叡明で愛される理由

山中の長所を聞くと、返ってきた答えはシンプルだった。

「根性と元気です」

叡明関係者へ話を聞くと、多くの人が口にする言葉がある。

「山中はチームの雰囲気を作ってくれる」

苦しい練習の時も、試合で流れが悪い時も、声を出し続け、自然と周囲が引き上げられていく。

ただ明るいだけではなく、人の懐に入るのが上手い。これは社会に出て非常に重要な能力だ。

皆から愛される彼だが、その象徴が先輩との関係だ。

昨夏の甲子園メンバーだった田口遼平選手とは今でも連絡を取り合う。

バッティングで悩めば動画を送り相談する。

すると田口先輩も自らバットを持ち、動画を撮影して送り返してくれるという。

技術論だけではなく、気持ちの持ち方や試合への向き合い方も教わっている。

「叡明の良いところはいい意味で先輩後輩の壁がないところです」

その言葉通り、山中選手は学年を超えて信頼されており、悩み事があれば相談し、後輩から相談されることもある。

そうした人と人を繋げられる選手であることが、ムードメーカーと呼ばれる理由なのだろう。

尊敬する先輩が教えてくれたこと

山中選手には特に尊敬する先輩がいる。

昨夏の甲子園メンバーの山口稜久選手だ。

理由を聞くと、「監督係として本当にお世話になったから」と話した。

野球の技術だけではなく、監督係を通じ「今、何が求められているのかを考え、先回りして行動する姿勢」を受け継いだことこそが、トンネルの中にいるチーム全体を支えている副主将・山中陽哉を形作っている。

山口さんは「いつも明るくて。逆境でも笑顔で野球を楽しんでいたのが印象的でした」

勝っている時だけではなく、苦しい状況でも空気を変える。

山口先輩が見せたその姿は、後輩の山中選手にも受け継がれている。

甲子園で見た景色、その先へ

山中選手の記憶に最も強く残っている試合は、昨夏の甲子園で行われた津田学園との一戦だ。

延長タイブレークまでもつれ込んだ激闘の末、叡明はあと一歩のところで甲子園初勝利を逃したが、山中選手の脳裏に焼き付いているのは敗戦の悔しさだけではない。

「田口さんのピッチャーライナーですね」

そう話しながら振り返ったのは、甲子園という大舞台でも臆することなくプレーしていた先輩たちの姿だった。

全国の強豪を相手にしても下を向かず、自分たちの野球を貫き続ける。その姿を間近で見たことで、山中選手は「全国でも戦える」という実感が残り、同時に自分たちもその舞台へ戻りたいという思いが強くなったという。

秋は熊谷商業に敗れ、春も思うような結果を残せなかった。それでも悲観していないのは、昨年のチームが春から夏にかけて大きく変わっていく姿を目の当たりにしてきたからであり、高校生は短期間で想像を超える成長を遂げることを知っているからだ。

ホームランで流れを変える選手がいる一方で、圧倒的な投球で試合を支配する選手もいる。しかし山中選手が目指しているのは、仲間へ掛ける一言で空気を変え、苦しい場面でも前を向く姿勢でチームを動かし、劣勢の流れを引き戻せる存在になることだった。

それは昨夏の先輩たちが見せてくれた姿でもあり、山口先輩から”先回りし今必要なことを考える重要性”を学び、田口先輩から”技術や心構え”を受け継いでいる。

昨夏の甲子園で見せた粘り強い戦いは多くの高校野球ファンの記憶に刻まれた。だからこそ今年の叡明がどのような夏を過ごし、どのような成長を見せるのかを楽しみにしている人は少なくない。

長い夏の先で山中選手がどんな表情を見せ、叡明高校野球部がどんな物語を紡いでいくのか 。
全国の高校野球ファンもまた、その続きを楽しみに見守っている。

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