激闘の埼玉大会を制し、悲願の初出場を決めた叡明高校。その原動力となったのが、3年生Wエースの増渕選手と田口選手だ。準決勝の山村学園戦では田口選手が11回タイブレークを完投し、決勝の昌平戦では増渕選手が先発マウンドを任された。二人が振り返る夏の戦い、そして聖地・甲子園へ。
Wエースの思いに迫った。
「気持ちで勝った」決勝のマウンド
決勝・昌平戦で先発を任された増渕選手は、初回から飛ばした。大会注目スラッガー櫻井選手を擁する強力打線に臆することなく投げきった。初回から5回まで毎回安打を打たれながらも粘り強く要所を締め、最少失点に抑えながら8回2失点と試合をつくった。
「初回から自分らしいピッチングができた。気持ちで勝ち切れた」と語る。夏の埼玉大会、増渕投手の失点は決勝での2点のみ。春季大会決勝での浦和学院、関東大会での山梨学院の敗戦から僅か3ヶ月の間にエースとしての成長を見せた。気持ちで勝ち切れたと話す増渕選手。メンタル面の成長はこの夏最大の収穫だった。
準決勝での先発は田口選手。プロ注目の右腕・横田選手を擁する山梨学院との一戦は、11回に及ぶ死闘となった。増渕選手はこの試合をベンチから見守っていた。
「田口がしんどい中、よく投げていた。横田くんも良いピッチングだったが、田口を信頼していたし、応援していた」と、仲間への信頼を口にする。
新チームが稼働した昨夏。「エースは田口。秋季大会も田口が投げ3回戦の山村学園に敗戦。田口だけでは勝てなかった。もう一人投手が必要だった」と語る中村監督の期待を大きく上回る程に成長を見せた増渕選手。
増渕選手は田口選手にマウンドでの立ち振る舞いや変化球の使い方などピッチング全般についてアドバイスをもらったという。学び合い、支え合う二人の関係性が、叡明の堅い守備と粘り強さを形づくってきた。

野球を始めたきっかけ、兄への思い
増渕選手が野球を始めたのは、小学生の頃。野球をしていた兄の影響や当時”金農旋風”を巻き起こした吉田輝星選手(現・オリックス)に刺激を受けた。
野球を通じて兄と過ごした時間が、彼にとって原点となっている。今回の甲子園出場が決まったとき、兄も非常に喜んでくれたという。
また、甲子園では「いつも通り、叡明らしく。とにかく楽しみたい」と話す。
山梨学院に関東大会のリベンジをしたい。また、かつて自身が憧れた金足農業の吉田大輝投手(吉田輝星選手の弟)とも投げ合いたいとも話す。
憧れの舞台に対して緊張よりも期待や楽しみという部分が勝っている様子が伝わってくる。
「自分勝手なやつなんて一人もいない」田口選手が語るチームの強さ
一方、準決勝で先発し11回を投げ抜いた田口選手は、あの激闘をインタビューで「人生で初めて11イニング投げた。横田くんと投げ合えて、疲れていたけどワクワクした。充実していた。」と口にした。スタンドの観客ですら精神力を削られる息詰まる激闘だったが、プロ注目投手との真っ向勝負に「やり合える充実感があった」と誇らしげに語った。
埼玉大会を振り返ると、序盤は思うような展開ができなかったという。「コールドで勝ち進んだが、自分たちの野球が体現できていなかった。でも5回戦くらいから、ようやく春の力を取り戻せてきた」とチームとしての修正力の高さを見せた。
決勝戦では「緊張しなかった」と話す田口選手。3年間積み上げてきたことを信じて、決勝の舞台に立った。「優勝が決まったときは実感がなかったけれど、街や駅で声をかけられたり、ニュースを見たりして、ようやく実感がわいた」。少しずつ湧き上がる喜びが、甲子園への期待感をさらに膨らませている。
甲子園では、ベンチに新たに3年生が2人加わった。田口選手は「3年生みんな仲がいい、性格も良い。自分勝手なやつなんて一人もいない」と断言する。
だからこそ、結果が出ない辛い時期を乗り越え、厳しい練習にも耐え、厳しい試合でも心が折れることはなかった。
最後も全員で戦い、悲願の甲子園初出場を全員で勝ち取った。
体全体を使って戦う、強豪校への挑戦
田口選手のプレースタイルは、スピードと無駄のない動きが持ち味だ。「自分は体が大きくない分、体全体を使ってプレーをしなければ強豪校の選手達に勝てない」と語るように、効率的に力を伝えるための練習に取り組んできた。
オフシーズンにはトレーニング施設「ネクストベースアスリートラボ」で自主トレを重ね、自分に最適な身体の使い方を追い求めた。
連続ティーなどで無駄な動きをそぎ落とした。「強豪校に立ち向かうには、自分の持っているすべてをぶつけるしかない」と言い切る姿勢には、自身の限界を超えようとする意志が伝わってくる。
甲子園では「悔いのないプレーをしたい」。
出塁し、走り、打ち、守り、そしてテンポよく投げる。そんな持ち味を存分に発揮して、夢の舞台を駆け抜けていく。
子どもたちに夢を与えるために

増渕選手は「甲子園でのピッチングを通して、子どもたちに夢を与えられるような存在になりたい」と語る。自らがかつて吉田輝星選手に憧れたように、今度は誰かの憧れになれるかもしれない。そんな希望を胸に聖地のマウンドに立つ。
田口選手は「小柄でも、気持ちと工夫で戦えることを伝えたい」と前向きに話す。
叡明高校の野球部には、決して派手さはないが、確実に力を蓄え、堅実に戦い抜く姿は、観客の心に響く。
二人のWエースはチームを引っ張る存在であると同時に、埼玉高校野球の新しい風を全国へ吹かせていく。
埼玉大会を制して甲子園出場という夢を叶えた先に、また新たな夢が生まれる。
2025年8月5日(火) 夏の甲子園が開幕する。
増渕選手と田口選手。叡明のWエースが全国屈指の強打者たちに挑み、甲子園でどんな歴史が生まれるのか。一戦必勝で勝ち進む未来を追っていきたい。